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LOGS

小シアターにて


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新しい住居──モーテル近くの貸しアトリエ。
そこに併設された小さな上映室に三人はいた。

シュガーポップムーン : えっとえっと、これがフィルムをセットする機工……かな?

ハーヴィ : ≪そう。ええと、多分ここに、≫

コリン : っぽいな……。確か前にハーヴィが規格はあってる~みたいな話はしてたはずだから、大丈夫……だよな?

ハーヴィ : (映写機を調べながら、慎重にフィルムをセット。)

ハーヴィ : ≪……これでいいはず。≫

シュガーポップムーン : (ぱちぱちぱち、と小さく拍手)

コリン : おぉ~

コリン : じゃあじゃあっ、あとは椅子に座ったら見れるんだよなっ?

ハーヴィ : ≪うん!あとはスイッチを入れて、座って観るだけ!≫

シュガーポップムーン : いちばん前っ!みんなで座ろっか!

ハーヴィ : ン!

コリン : おう!


コリン : (とふん、椅子に座る。背筋は少しは正されているが前かがみよりだ。)

ハーヴィ : (膝の上にはふわふわを乗せて。人形の指が小さく頭を撫でた。)

シュガーポップムーン : (遊園地と比べると少し小さくて、錆と埃の匂いのない部屋。後ろに人はいないから背筋を正しても大丈夫。)

ハーヴィ : (ふたりのほうを覗き込むようにして、ちいさく笑い。もうすぐ再生が開始される。)

コリン : (皆でこうして映画を見るのは初めて。そうして大好きな友達のお姉ちゃんの姿も見れるのだから、嬉しくってしょうがなかった。)

シュガーポップムーン : (右隣の二人に視線を向ければくすりと笑って。スクリーンに向き直った。)


──映画が始まる。

コリン : (楽しみだな! そう口にする前に上映が始まった。出掛けた言葉をぐっと呑み込んで、画面へと集中する。)

ハーヴィ : (そうして始まった映画。前にも見た、もう随分と昔から使い古されたようなストーリーの。)

シュガーポップムーン : (浮かび上がる映像を見つめる。煌びやかなドレス、見覚えのある四肢。)

コリン : (昔から使い古されたストーリーも、経験未熟な少年にかかれば目新しいものに映る。 美しい衣装、洗練されたお芝居、目の前にあるのにない不可思議さ。)(膝の上で拳をぎゅっと握って、時折感嘆の語句を短く漏らしたりして。)


ハーヴィ : (人形の腕はぬいぐるみを抱えて。どこかで見たようなシーン、どこかで聞いたような台詞。慣れた者なら眠気すら覚えそうなそれ。しかしその動きの、台詞のひとつとして見落としてはならないというように見つめる。)

シュガーポップムーン : (多くの作品を見てきて、多くの演者と、声と、表情を見てきた。この作品もその中のひとつ。)(どこかで見て、聞いたようなものごとが連なっていっても、それが大切な者の、大切なものであるから、ただただ真っ直ぐに観つづけていく。)


物語は進んでいく……。

ハーヴィ : (人間の男と、ヒロインを演じるイミテイターは。道ならぬ恋の物語は、冗長に、しかし確実に進んでいく。)

シュガーポップムーン : (この作品が、夢が、作られたちいさな世界と同じことが実際に起こり得るのか、それが多くの目から見て許されることなのか否か──観客たちの中では、そんな話だって出たのかもしれない。)(ただ少女はそんなことは気にもかけないまま、目の前の演出を見つめている。)


ハーヴィ : (背の高い、正に女優然とした女だった。凛とした中に優しさを滲ませた顔立ちは、きっとこんな作品によく似合っていたのだろう。銀幕の中、涙が一筋。糸繰人形に与えられた押し付けがましい人間性の一端。)

ハーヴィ : (──けれどそれを流すことが出来るのは、彼女がその感情を知っていたから。青年にはそう映る。)

シュガーポップムーン : (ふっと自分の頬に触れてみた。其処に濡れた感触は無い。あり得るはずがない。)(だからただ、なんとなく触れてみただけ。それだけだった。)

コリン : (少年は少年であるが故に、この題材の難しさも、イミテイターが起用された理由も、制作した者演じた者の考えも、分からない。 それよりも、素直な感想の方が先だった。滑らかな肌に流れるそれを、綺麗だと。どうしてかその表情から目が離せなくって、見惚れている。)


クライマックスが近い。

ハーヴィ : (男と女が、歩いていく。駅のプラットホーム。蒸気機関車のシーン。)

ハーヴィ : (映画の中、ただの役柄。だがなにかの意味を持たされた”人とイミテイターの共演”、その物語の終わり際、描かれてきたそれぞれの立場を、過去を、周囲を。すべてを捨てて”ただの男と女”になった二人が。)

ハーヴィ : (蒸気機関車に乗り込むふたり。男が差し伸べた手。人形の手で応え。)

ハーヴィ : (ほんの少し肩を震わせて呼吸の音が乱れるのを抑えたのは、それが感動的であったから、ではないけれど。)


シュガーポップムーン : (映し出される像、触れ合った手と手を見つめる。きっとそれは暖かなものだったのだろうと沈黙の内に思考した。)

コリン : (少年はそれを"ハッピーエンド"と信じて疑わない。だって二人はお互いを認め合って、結ばれたのだから。)(蒸気機関車の後ろ姿から目を離して、視線は両隣の友人たちへ。)

コリン : (そっと手を伸ばした。 届いたのなら、ぎゅうと握る。)

シュガーポップムーン : (思考の中でだけ浮かんでいた熱が自身の手に灯る。ちらと隣を見て、少し驚いたような表情は直ぐに微笑みに変わった。)

シュガーポップムーン : (同じように、ぎゅうと握り返す。)

ハーヴィ : (すこし驚いたようにして。画面から視線が外れ。)

コリン : (微笑みとその手に嬉しくなって、自然と笑みが零れる。微笑みを返せば、こんどはもう片方の友人の方へ。)

ハーヴィ : (青年もまた、その温かさに応えた。)

コリン : (にぱ!嬉しさいっぱいの笑み。 両手にあたたかさを握りしめて、エンドロールを見送る。)


ハーヴィ : (──エンドロール、主演男優の名の、その下に。)

ハーヴィ : (RB2042-MA "Grace" Lilia)

ハーヴィ : (そんな、名前。)


シュガーポップムーン : (少女は見つめ続けた。エンドロールのその先、その名前が見えなくなるまで。)

コリン : (口の中でその名前をころがす。それはよくよく覚えておくためでもあって、ただ、友人の姉は名前まで美しいんだな、という感心でもあった。)

ハーヴィ : (”グレイス”リリア。”グレイ”ハーヴィの姉であり、名付け親。与えられたあざなは、彼女のように恩寵と期待を受けたものではないが。今は同じように愛しく誇らしい、どっちつかず。)


ハーヴィ : (エンドロールの最後の一行が流れて消えて行けば、ゆっくりと日常が戻ってくるだろう。)

ハーヴィ : (からからとフィルムの回る音が止まり。同時に周囲も明るくなっていく。)


映画が終わった。

シュガーポップムーン : (すっかり部屋が明るくなったなら、脚をぐいーと前に軽く伸ばす。意味の無い動き、けれど区切りの動き。)

シュガーポップムーン : (開いている手で、反対側の腕を叩いて拍手。右手はまだ塞がっていたから。)

ハーヴィ : (んん、と小さく声を漏らし。膝の上のふわふわの頭をぽんぽんと何度か)


コリン : (すっかり暗くなったところから、ぱっと明るくなったものだから、目を何度かしぱしぱさせて。ハッとする。両手が……ふさがっている!)

コリン : (けれど何となく、まだ放したくはなかった。)(少しばかり考えて。内心で何度か拍手、それから二人の手をぎゅうと握ることで拍手の代わりとした。)

コリン : (それでようやく、満足したらしい。力は抜けて、放そうと思えば手は離れていくだろう。)

ハーヴィ : (少年の手の力が緩んだのに気が付くと、慈しむように一度掌で包み込んで。撫でるのと一緒にゆっくりと手が離れた。)

シュガーポップムーン : (こちらは少年の手を一緒に持ち上げて軽く上下に振ってから、ゆっくりと手を離した。)

コリン : (それぞれの愛情表現にへへ、と声をもらす。戻ってきた手の片方で、頬をかいた。)


ハーヴィ : (むぎゅ!と両腕でふわふわを抱きしめて。)

ハーヴィ : ≪二人と観れてよかった!≫(端末にはそんな文字。)

コリン : ん!おれも!

シュガーポップムーン : うんっ!三人で見れて、うれしい!

コリン : 前はバベルの遊園地でこっそり見たんだけど、一人だったからさ。

コリン : なんか、映画の向こうに置いてかれたみたいでちょっと寂しかったんだ。

ハーヴィ : ≪コリンも観てくれてたんだ! えへへ、嬉しい。≫

コリン : でも今日は隣に二人がいてくれたから、全然そんなことなかった!へへ、ありがとな!

シュガーポップムーン : うんっ!

シュガーポップムーン : ここにいるよ~っ!(なんて言いながら、ぎゅ~っとコリンに寄った)

ハーヴィ : ≪うん、オレも一人だとなかなか観ようってならないし、それに三人一緒だといつもより面白かった気がするや。≫

コリン : へへ~~っ、手、ありがとな!(ぎゅ~~っと肩を寄せ合った)

ハーヴィ : ン!(同じようにして体をコリンのほうへ傾け)

コリン : !(もっと近くにいられるように、手を伸ばしてハーヴィの腕を引き寄せる。三人でぎゅ~っだ。)

シュガーポップムーン : えへへ~っ

ハーヴィ : (ちいさな笑い声を上げて少年にいざなわれ。)


ハーヴィ : ≪コリンにはまだ紹介してなかったよね。あれがリリアねえ。きょうだいの三番目で、オレにハーヴィって名前をつけてくれたきょうだいだよ。≫

シュガーポップムーン : きれいで、えっとえっと、かっこいい…って感じがするイミテイターさん!

コリン : ハーヴィに名前つけてくれた人なのか!めちゃくちゃセンス良いじゃんっ……!

コリン : リリアって名前も可愛いし、名前つけるの得意だったんだな~。

ハーヴィ : ≪でしょ! えへへ、オレたちマリオネッタはきょうだいそれぞれで名前付け合うんだよ。みんないい名前!≫


ハーヴィ : ≪リリアねえも、しっかりしてるけど優しくて、|≫

ハーヴィ : (少し俯き、)

シュガーポップムーン : ハーヴィ……?

コリン : お互いになのか!ほんとに仲良い……、ハーヴィ?

コリン : (止まった端末、俯くあなたに心配そうに声をかける。)

シュガーポップムーン : (少年の向こう側、前かがみになって覗き込む様に)


ハーヴィ : ≪ とても、優しかった。みんな。≫

ハーヴィ : ……(吐き出す吐息がちいさく震え)

シュガーポップムーン : ………

ハーヴィ : ≪楽しかったね、って言ったばっかりなんだけど。≫ ≪……聞いてくれる? みんなのこと。2040から2049のこと。≫

コリン : ……、うん。当たり前だろ。

シュガーポップムーン : (青年の息遣いと、表情と、浮かび上がった文字とを視線で追って、)

シュガーポップムーン : ……うん。

ハーヴィ : ≪……ありがと。あ、けどその前に。一回部屋に戻らない? ここはあんまり人が来ないけど、万が一って事もあるし…… 落ち着いたところで話したいや。≫

コリン : ん、そーだな。俺が真ん中だとシュガーもハーヴィの文字、見づらいかもしれないし。

シュガーポップムーン : うんっ そうしよっか!

ハーヴィ : (フィルムを取り外して大事にしまい)ン。

シュガーポップムーン : (その様子を見れば頷いて)



コリン : ただいま~。

シュガーポップムーン : ただいま~っ

ハーヴィ : (部屋へ戻ると、冷蔵機能が付いた機工から買い置きの牛乳を取り出して火にかけ始め。)

コリン : ?何作ってんだ?

シュガーポップムーン : それは……

ハーヴィ : ≪座ってて!≫(シュガーポップムーンへ端末を手渡し)

シュガーポップムーン : ふえっ(思わず受け取り、端末と青年とを見比べた後に、少年へと視線を向け)

ハーヴィ : ≪ホットミルク。蜂蜜入れてちょっと甘くするから。≫

コリン : ん、分かった!

ハーヴィ : (そうして台所へ戻っていく。)

シュガーポップムーン : わ~っ うん、座っておくねっ


ハーヴィ : ≪こうすれば離れててもお話できるからね。≫(と、端末に文字。)

シュガーポップムーン : (受け取っていた端末を指先でそっと撫でながら机の中心に置いて)

シュガーポップムーン : えへへ…… なんだかこうしてると不思議っ

コリン : ん、不思議って……何がだ?

ハーヴィ : (少女の声に耳を傾けながら、牛乳を焦がさないようにゆっくり温め)

シュガーポップムーン : こうやって、ハーヴィの言葉だけ近くで見えるのが、ちょっと不思議だな~って

コリン : ああ、確かに!いつもはハーヴィの首にかけられてるもんなあ。

コリン : 端末単体って珍しいかも。

ハーヴィ : ≪ああ、そういうこと。 実は距離離してもある程度は大丈夫なんだよね。≫

ハーヴィ : (声を聞きながら、端末だけの応答。)

コリン : 声張ったりしなくてもいいのは良いよな~。ちゃんと聞き逃さずにいれる!

シュガーポップムーン : (端末をつんつんつんつんしながら待っていることでしょう)

ハーヴィ : ≪たまにはこれも役に立つ、ってことで。 お待たせ。≫

シュガーポップムーン : !(手を止めて)

ハーヴィ : (そんな文字と共に、トレーにマグカップを3つ乗せてやって来る。)

ハーヴィ : ? ≪どうかした?≫


コリン : あ!

シュガーポップムーン : わ~っ (と、マグカップ三つには小さく拍手)

コリン : はちみつホットミルク!おれの分もある!

ハーヴィ : ≪もちろん。一緒に飲も。≫

シュガーポップムーン : ありがと、ハーヴィっ!

ハーヴィ : (少女には笑顔を返し)

コリン : へへ、ありがとな~~。

ハーヴィ : ≪……って言っても、あんまり美味しく飲めなくなっちゃうかもしれない、けど。≫

コリン : そーなのか……?じゃあ今飲むか。(ふーふーっと一生懸命水面に息を吹きかける。こんなものだろう、と判断したあたりで躊躇いなく口をつけて、)

コリン : あぢっ!(案の定火傷した。)

シュガーポップムーン : コリン、きをつけ あ~っ

コリン : ……(カップをそっとテーブルに置く。何事もなかったかのように……。)

ハーヴィ : ≪大丈夫!? 水持ってくる?≫

シュガーポップムーン : 大丈夫っ?

コリン : へーきだよ!ちょっと火傷したけど……、ちょっとだから。

シュガーポップムーン : 本当?ほんとうに平気なら、いいけど~……

コリン : ま、まあな?美味しさは今分かったから大丈夫。遠慮なく話していいぞ。

シュガーポップムーン : いたいのいたいの とんでいけ~っ(と、おまじないの仕草はしておいた。)

コリン : ん、へへ、ありがとな。シュガー。

ハーヴィ : (自分もとんでけ~ をしつつ。)


ハーヴィ : …… ≪うん、それじゃあ、えっと。 ……いざ話そうって思うと、どこから話せばいいのか。≫

コリン : (ハーヴィにもありがと、と添えつつ、話の邪魔をしないように端末を見つめる。)

シュガーポップムーン : (マグカップに両手を添えつつ、青年の表情を見遣る。)

ハーヴィ : ≪オレにはきょうだいがいた、のは知ってると思う。オレが一緒にいられたのは半年間だけだったけど、オレの事を大事にしてくれて、いつでも一緒だった9人の『おねえちゃんたち』。≫

ハーヴィ : ≪…… ロージー、フレイザー、リリア、エルヴィズ、ジュード、ヴィヴィアン、エリオ、アイゼリア、トレイシー、……そしてオレ。≫

シュガーポップムーン : (きょうだいがいた、の部分には頷いて。述べられる名前をひとつひとつ記憶していく。)

コリン : (そのひとつひとつを口の中で反復する。)


ハーヴィ : (マグカップを両手で包み込むようにして、視線はその白い水面、その一点。惑うように顔を上げ。)

ハーヴィ : ≪Rabbit Blackout シリーズ2000 マリオネッタ40番代で今現在稼働しているのは、≫

ハーヴィ : ≪『登録抹消個体』、記録に残されなかった49號 一機だけ。≫

シュガーポップムーン :  えっ

シュガーポップムーン : えっと、それって、つまり、

シュガーポップムーン : (一度言葉を区切って、文字から青年の方へと視線が移る。)


ハーヴィ : (取り出したのは、一枚の紙片。バベルを出たあの日、資料庫から持ち去った新聞。)

コリン : それ……、バベルを出る前に持ち出してた、やつ。

ハーヴィ : (広げて示した三面記事。要約──『RB社が社会に著しい損害を与える計画をしていたこと / マリオネッタ型はその兵器とされる予定だったこと / それゆえに危険視され、 / RB社にまつわるすべてのイミテイターと兵器を回収、破壊したこと。』)

シュガーポップムーン : …………

ハーヴィ : (そうしてその下、RB社の”オーナー”のインタビュー。 彼が如何なる悪意を以て、マリオネッタという存在を生み出したかについて。)

ハーヴィ : (端末は、まだ何も語らない。)


コリン : な、……、そ、そんなこと、ないだろ……!だって、ハーヴィは、(端末から目を離して、ようやくあなたへと目を向ける。)

シュガーポップムーン : (開かれた記事、羅列された真実と、“オーナー”のインタビューを静かに読み進めた。)

ハーヴィ : (『玩具なんだから』 『遊ばないと意味ないでしょ』 ──そんな言葉で締めくくられたインタビュー。遊びの内容は、”人懐こい”マリオネッタに、大切なものたちを壊させること。)


ハーヴィ : ≪ここに書いてある通りになる前に壊されて、きっとよかった。きょうだいがそんな事させられるの、見たくないから。≫

ハーヴィ : (少年の否定、だが事実として。ハーヴィは、戦闘用の改造が”可能”であり、そうされている。)

シュガーポップムーン : それは、 ……

コリン : そんなの……、そう、だったとしても……。

シュガーポップムーン : どっちになっても、 ……いやなこと、だよね。

ハーヴィ : ≪……誰も、悪い事なんかしてない。きょうだい以外の他のマリオネッタだって、≫

ハーヴィ : ≪でも、みんなもういない。 それが、事実……。≫

シュガーポップムーン : ハーヴィ……

シュガーポップムーン : (マグカップに添えていた手を、青年の方に伸ばし、そっと腕に触れた。)


コリン : ……(一瞬だけ家族のことが過った。半ば追い出されるようにして旅に出されたけれど、その後の皆ことはちっとも知らない。)

コリン : (シュガーの真似をするように、あなたへと手を伸ばす。)

ハーヴィ : (顔を上げる。触れられたふたつの手と、その先の二人の顔を見て。)


ハーヴィ : ≪オレたちは『娯楽用』だった。≫ ≪人形の身体に人間性を押し込めて、≫ ≪人間にはなれないまま全部が大好きで、≫ ≪最期には自分の手で壊してしまう。≫

ハーヴィ : ≪──『オーナーのための娯楽用』。≫ ≪オレはそれが、悲しかった。≫


シュガーポップムーン : じぶんが、製造された、りゆう…… (ちらと記事に視線を向けてから、小さく首を横に振って青年へと視線を戻す。)

シュガーポップムーン : なかったことには、うそには、出来なくって…… だから、わたしはハーヴィのちかくにこうやっていることしか、できない、けど……

シュガーポップムーン : (少女は言葉を区切れば席を立って、青年をぎゅうと抱きしめた。)


コリン : でも、でも。ハーヴィにとっての"お姉ちゃん"たちは、そうじゃないだろ……! オーナーのための娯楽用、じゃなくて、ハーヴィたちの機能で、ハーヴィのお姉ちゃんで……!

コリン : 作った奴が何考えて作ってたって、おれにとってはハーヴィはハーヴィだし……!(一生懸命に言葉を紡ぐ。相変わらず何が言いたいのかまとまりのないまま。)

コリン : ……!(結局、友人と同じようにあなたにぎゅうと抱き着いた。)

ハーヴィ : (少女の抱擁、その腕の中で少年の声を聞きながら。)≪そうだよ。コリンの言う通りだ。みんなオーナーの玩具なんかじゃない。オレの大事な、≫


ハーヴィ : ≪──家族だったのに≫(机上に置き去りにされた文字。)


シュガーポップムーン : (少年と同じように声を荒げ、否定することができないことが寂しかった。)(元ある理由と目的の為に作られた、その為に動いていた、その為のイミテイターであった少女は、ひとにはなれない。)

シュガーポップムーン : (──それでも、)


シュガーポップムーン : 家族、だったのに、(復唱されるように零した声は、確かに自分の気持ちでもあった。)


コリン : おれ……ハーヴィのことも、シュガーのことも、絶対壊させたりしないから。大事な友達のこと、絶対守るから……。

ハーヴィ : (一度は割り切った筈の感情<演算>も、こうしてひとたび言葉にすればまた悩み<再計算>。割り切れなかった”余り”の悲しみと悔しさが嗚咽となって出力される。)


ハーヴィ : (ぶらんと下がっていたままだった腕が、二人を強く抱きしめて。)

ハーヴィ : ≪二人は、オレの家族。≫ ≪きょうだいみんなの代わりじゃない。≫ ≪大事な家族。≫

シュガーポップムーン : ! ……、

ハーヴィ : ≪オレも、今度こそ≫ ≪絶対に離れない。≫

シュガーポップムーン : ……うん、 ハーヴィ、コリン、わたしで、ずっと一緒。

シュガーポップムーン : おにいさまたちの代わりじゃなくって、二人だけの大切、だよ。(腕を伸ばして、少年も抱き寄せるようにして。)

コリン : うん……、ああ!シュガーもハーヴィも、親父たちとは違う大事だから!友達で、家族で、二人だから大事!

コリン : (少年の体格はまだ完成しておらず、故に腕も短かい。ぐいぐいとハーヴィに抱き着きながら、どうにか伸ばしてシュガーに触れる。)


ハーヴィ : (ようやく、ちいさな笑い声。)≪うん、二人だから、大事。オレたち三人だけの特別。≫

ハーヴィ : ≪きょうだいたちのこと、今も悲しいけど、悲しいことだけじゃなくて、嬉しくてあったかいことがたくさんあるから。……オレは大丈夫。≫

シュガーポップムーン : ……うんっ

コリン : ん!

シュガーポップムーン : (二人を抱き寄せながら、端末の文字を目で追って。)

シュガーポップムーン : ハーヴィのこと、この記事のこと……ぜんぶぜんぶ、変えられるわけじゃないけど、でも、わたしたちが傍に居るから、

シュガーポップムーン : だから、たくさん、お話して、気持ちを話して、やりたいこともたくさん!……いっしょにしていこうね。


コリン : だな!あとさ……、もしもハーヴィが辛くなかったら、なんだけどな……。

コリン : ハーヴィのお姉ちゃんのこと、また聞かせてほしい。 シュガーも。お兄ちゃんやお姉ちゃんのこと、聞かせてくれるか?

コリン : おれも二人の家族のこと、ちゃんと覚えておきたいから。

ハーヴィ : (うん、うん、と小さく何度も二人の言葉に応えながら。)

シュガーポップムーン : ……うんっ!

ハーヴィ : ≪喜んで。 オレが話して、二人が覚えてくれて、そうしたらきっとその中で、みんな生きてるから。≫

コリン : へへっ、ありがとな!楽しみにしてるっ!


シュガーポップムーン : じゃあじゃあっ、えっとね、

シュガーポップムーン : (そっと身体を離す。それから席に戻って、ホットミルクのマグカップに手を添えて。)

シュガーポップムーン : その時は、またホットミルク、つくろっか!

シュガーポップムーン : (笑顔を浮かべてから、きっとまだ冷めきってはいないそれに口を付けた。)

ハーヴィ : ン!(にぱ、と笑顔を浮かべて。)

コリン : ん!……まだ熱そう?


ハーヴィ : ≪まだいっぱい話したいことがあるんだ。二人の話も沢山聞かせてね。≫

ハーヴィ : ≪ちょっとぬるめかも。温め直す?≫

コリン : ん-ん、また火傷するのはヤだし……。このぐらいがちょうどいーよ!

シュガーポップムーン : おいし~っ もうあつあつじゃないよ~っ(にこにこと笑顔を浮かべた。)

シュガーポップムーン : (つまり、火傷はしないということ。)

ハーヴィ : ≪そっか。 ならいいんだけど!≫

コリン : (ゆるりと離れて、カップの温度も確かめないまま口をつける。火傷するような熱は持っていなかった。 とはいえ、一気に飲むと同じことの繰り返し。少しばかり飲んでから、カップをテーブルへ置いた。)


シュガーポップムーン : (そっと手を伸ばして、広げられた記事を綺麗に畳んだ。それは、ただこれ以上見えているのがなんだか嫌だったからという自分勝手さからだけれど。)

コリン : うま……、(はちみつの甘味が喉を流れる。ぺろりと口の上についた牛乳をなめて、ハーヴィに向き直り)

コリン : ありがとな

コリン : すっごく美味しい!

シュガーポップムーン : うんっ!

ハーヴィ : ≪えへへ、よかった~!≫

ハーヴィ : (そうして自分も一口。こくりと喉が上下する。)

ハーヴィ : ン!≪うん、美味しい!≫


ハーヴィ : ≪今度はココアにしてもいいかもね。オレまだ飲んだことないんだ。≫

シュガーポップムーン : ココア!

コリン : ココアも甘くておいしいよな。牛乳入れたらもっとおいしい!

シュガーポップムーン : わ~っ! えへへ、そうだよねっ まだまだ、はじめてできることもた~くさん!

ハーヴィ : ≪お鍋で粉を練って作ると美味しいんだって! この間街に行った時に聞いたの。 ……うん!いっぱい三人でできるよ、はじめての事!≫

コリン : そんな作り方もあんのか!

コリン : へへ、次はハーヴィに任せるだけじゃなくておれも作る!

シュガーポップムーン : わたしもおてついだいする~っ!

ハーヴィ : ≪もちろん!みんなで一緒にやろうね!≫

コリン : おう!


コリン : でも今日は……、(ふわ、とあくびして)

コリン : ちょっとねむい、かも。

ハーヴィ : (ちいさく笑って)≪だね。映画も観たしいい時間だ。≫

シュガーポップムーン : ふふふっ そろそろおやすみ、する?

コリン : 温かくて甘いもの飲むと、なんか余計眠くなるよな……。

コリン : ん……、そーする。

ハーヴィ : ≪ん、一緒に寝よ。≫(そうして空いたマグカップをトレーに回収して)

シュガーポップムーン : ハーヴィ、ありがと~っ

ハーヴィ : ≪どういたしまして~ 洗い物は明日!≫

コリン : 起きたらやる!

シュガーポップムーン : ふふふっ は~いっ!


ハーヴィ : ン!(おいで!と両手を広げて)

シュガーポップムーン : (ばふ!と飛び込んだ。)

コリン : ん!(もす!)

コリン : (帽子を寝台横の机に置いて)

シュガーポップムーン : (いつも通り、二人に身を寄せてぎゅうぎゅうになる。)

コリン : へへへ……(ぎゅうぎゅう。毎日のことなのに飽きずに嬉しい。)

ハーヴィ : (二人を抱き留めたまま、片方の手が機工の灯りのスイッチに触れ。)

ハーヴィ : (ぱちりと押せば、暗くなる。嬉しそうに声を上げて仕事を終えた片方の腕がまた二人に触れる。)

コリン : (これだけぎゅうぎゅうだと、比較的短い腕の少年でも二人に届く。抱きしめるように二人に触れて)

シュガーポップムーン : (暗くなる。映画が始まるわけでもなく、やってくるのは今日のおやすみ。明日にあいさつをするための温かな休息。)

ハーヴィ : (つい先日、故あって一人で眠ることになった時のベッドの広さを思い出しながら。この窮屈さの、なんと愛しい事だろう。)

シュガーポップムーン : (腕を伸ばして、同じように抱きしめるように二人に触れれば、もっと温かい。)

ハーヴィ : んぅ。(おやすみの挨拶は、そんな声。温もりが眠気を誘う。)

シュガーポップムーン : おやすみ、コリン、ハーヴィ、

コリン : おやすみ~~……(顔を背中、あるいは胸に埋めて、呻きめいたおやすみの声。)

コリン : おれ、がんばって……起きて洗うから……むにゃ……(半ば眠りの中に入ったまま)

コリン : (以降、すーすーと規則正しい寝息が聞こえてくるだろう。)

ハーヴィ : (少年の身体を、優しく撫でて。寝息が聞こえて来ればそれもゆっくりと止まっていく。──今度は自分の番。)

シュガーポップムーン : (くすくすと笑って、少年の寝息を聞き届けて。軽く腕をぽんぽんと揺らしてから、同じく休息に入っていく。)

ハーヴィ : (流した冷たい涙はそのままでも。何にも代えられない温もりが、そこにある。)

 2023 by ROUTE87 / 大槻

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