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LOGS

HARDDISK


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アンジェロ : (シーツを伸ばしてる)

ハーヴィ : (ぱち。おめざめイミテイター)

アンジェロ : (一方こちらは隣室の、ちょうど帰ってきたイミテイターだ)

ハーヴィ : (寝ている二人を起こさないようにベッドから出る……と、わずかに聞こえた物音。)

アンジェロ : おや(隣室で誰かの動く気配)


ハーヴィ : ン、

アンジェロ : (ひょいと顔をのぞかせて)……ハーヴィでしたか。

ハーヴィ : ≪や。お邪魔しちゃってた。≫ (あなたの姿を見れば手を振り)

アンジェロ : お気になさらず。僕もここでは客と変わりありませんから。

アンジェロ : 僕はちょうど休眠しにきたところですが、これからお出かけですか?

ハーヴィ : ≪そうなの? ここいつでも誰かいるからなあ。≫

ハーヴィ : ≪あ、ええと、そうだね。目が覚めちゃったし散歩もいいかな、どうしようかなーって思ったら音がしたから出てみたの。アンジェロだったんだね≫

ハーヴィ : ≪お休みの邪魔しちゃったね≫

アンジェロ : はい。偶然ですね。

アンジェロ : ああ、いえ、お気になさらず。


アンジェロ : ……そうだ、少々待ってください。

ハーヴィ : ?

アンジェロ : (一度部屋に引っ込んで、すぐに出てくる)お菓子の礼……というほどでもありませんが……

[クッキー] を手に入れた。

アンジェロ : (一般クッキーを手渡す)

ハーヴィ : !(ぱっと笑顔を浮かべて)

ハーヴィ : ≪もらっていいの?≫

アンジェロ : はい、もちろん。

ハーヴィ : ≪嬉しい……。 ありがとね!大事に食べる!≫ (と、小さく跳ねる姿は心の底から喜んでいるようだ)


アンジェロ : (まじまじとハーヴィを眺めて)……ハーヴィ、あなたはとても自然に振る舞うのですね。

アンジェロ : 僕は自分のことを、かなり人真似が上手だと思っていたのですが、あなたには劣るかもしれません。

ハーヴィ : ≪ああ……よく言われる。 けど自分じゃよく分からないんだ。≫

ハーヴィ : ≪まあその分オレは見た目が全然隠せてないんだけどね。≫(と、腕をぷらぷらとさせる。人形めいた球体関節)

ハーヴィ : ≪アンジェロはたしか…… 生体イミテイターだよね? ジレイから聞いたんだ。≫

アンジェロ : はい。生体イミテイター、あるいは人体イミテイター、いくつか呼称がありますが……

アンジェロ : 人間のご遺体を利用したイミテイター、です。


ハーヴィ : (頷いた。) ≪近くで見てもイミテイターには見えないよ。知識はあったけど、実際会ってびっくりした。≫

アンジェロ : ありがとうございます。マスターの意図は問題なく働いているのですね。

アンジェロ : 僕は、僕がおばあさまと呼称する人間の介護のために生み出されたイミテイターです。

アンジェロ : おばあさまは認知症が進んでおり、お孫さま以外のご家族を他人と認識してしまうので、

ハーヴィ : (ジレイというイミテイターが己に語っていた、「人間の心の安寧のために作り出された存在」という言葉を思い出す。)

ハーヴィ : ≪記憶の……脳の病気、だよね≫

アンジェロ : はい、そうです。

アンジェロ : 年老いた人間の多くが同様の病を患います。

アンジェロ : そのような理由で、僕はおばあさまに、お孫さまだと誤認させるためにこういった姿をしています。

ハーヴィ : ≪そっか……。それで。≫

アンジェロ : はい。その気になれば人格も模倣できます。

アンジェロ : ハーヴィ、あなたは?

ハーヴィ : ≪今はアンジェロ自身の、って事だよね。≫


ハーヴィ : ≪オレ? ……オレは……、オレの人格が?≫

アンジェロ : ああ、いえ。申し訳ありません、言葉足らずでした。

アンジェロ : あなたの開発者がどのような意図であなたを作ったのか。

アンジェロ : それをお聞きしました。

ハーヴィ : ≪ああ、そういうことか。 こっちこそごめん、気にしないで。≫


ハーヴィ : ≪オレの、オレたちの開発思想は、『イミテイター技術”のみ”を用いた人間という存在の再現』。≫

ハーヴィ : ≪人間を作り出すでも、人間にするでもない。人形でありながら、人間のように振る舞うものを作り、披露する。≫

アンジェロ : ……ふむ。(ジ、ジ、とあおいアイカメラが音をたてた)

ハーヴィ : ≪だからオレたちは興行用に使われるけど、それ自体は副次的なもので。≫

ハーヴィ : ≪どんな風に人間の役に立つかより、稼働していることそのものに価値がある。≫

ハーヴィ : ≪……って、オレたちの”オーナー”…… 社長は言ってた。≫


アンジェロ : なるほど。目的があって製造したのではなく、研究的な意味合いを持って製造されたということですね。

ハーヴィ : ≪うん。あとはあれだね。会社のプロモーション。≫

アンジェロ : 会社としてのアピールですか。

ハーヴィ : (肯定をひとつ。) ≪オレたちの製造元……RabbitBlackoutは兵器メーカーなんだ。評判もよくなかったはず。≫

ハーヴィ : ≪そんな評判のよくない会社が、こんなに安心安全なイミテイターを作れますよ、って外に向けてアピールするために作り始めたのが最初なんだってさ。≫

ハーヴィ : ≪おねえちゃんたちから聞いた話だけどね。≫

アンジェロ : イメージアップを図ったのですね。バベルに商業施設が建築されたことと似たような理由です。

ハーヴィ : (こくこく)


アンジェロ : ……。人形でありながら、人間のように振る舞う……。

アンジェロ : (アンジェロは、それは酷なことのように思えた。それを口に出すことは、無いが)

ハーヴィ : ≪振る舞うって言っても、頑張ってお芝居してるわけじゃないよ? ただ、どうして”こんな感じ”かは説明できないの。≫

アンジェロ : ……とても高度なことです。

ハーヴィ : ≪どうにもそうみたい、だ。 テラにも言われた。≫

アンジェロ : やはりあなたは、僕よりもきっと、ずっと、“人真似の上手なイミテイター”だと思います。

ハーヴィ : ≪人真似、かあ。オレはずっと自分をイミテイターだと思ってるけど、オレが知らないうちにそういう風になったんだろうね。≫


ハーヴィ : ≪……オレね、自分の機能がどんなだか、全然知らないの。知ることもできない。≫

アンジェロ : ……はい。

アンジェロ : 僕は、僕自身がなんのために生まれたのかが理解ります。

アンジェロ : 何をすべきか全てわかっていて、疑う必要はどこにもない。

アンジェロ : あなたには、それがない。

ハーヴィ : ≪……たぶんきみの言う通り。≫

ハーヴィ : ≪オレには自分のマナ残量がわからないし、自分の機能のなにかにアクセスするって方法も感覚もしらない。≫ ≪でも傷がつくと痛い事と、疲れたり眠くなったりお腹がすいたりすることはわかる。≫

ハーヴィ : ≪それが他のみんなと違うってことも。≫

アンジェロ : 学習と体験が、あなたの全て……

アンジェロ : かも、しれませんね。


ハーヴィ : ≪『人間はそんな事できないから』。だからオレたちの演算には制限が掛けられてて、知覚できないようになってる。 ……これも”オーナー”が言ってた。≫

アンジェロ : ……。…………。僕は、あなたに憐れみを感じているのかもしれません。

ハーヴィ : ≪オレに? どうして?≫

アンジェロ : ……………言語化が困難です。

ハーヴィ : ≪うーん、そっかあ。 けどあんまり気にしないでほしいな。この通りオレ、元気だし。≫

アンジェロ : 僕にはあなたが、苦難を背負っているように感じます。けれど、あなたはそうは思っていないのでしょう。

アンジェロ : はい。元気なのは良いことです。

ハーヴィ : (言った矢先、そんな言葉。)


ハーヴィ : ≪オレに苦難があるとしたら、そうだなあ。≫

ハーヴィ : ≪こんなだから、イミテイター同士でも分かってあげられない事がある時と、≫

ハーヴィ : ≪あとは”これ”だね≫ ≪それくらい。≫

ハーヴィ : (そうして文字を映す端末をこんこんと叩いた)

アンジェロ : (アンジェロは小さく笑みをこぼした)


アンジェロ : この街のイミテイター達は独自性が強くて、僕もほとんどわかってあげられません。

アンジェロ : 一緒ですね。言語面は違いますが。

ハーヴィ : ≪そう言われるとそうかも。≫  ≪でも、言われてちょっと安心した。≫

アンジェロ : ……あなたも、僕も、そうですからね。もしかしたら、そういうものなのかもしれませんよ。

アンジェロ : 一般のイミテイターどうしでも、わかりあえない。


ハーヴィ : ≪そうだね……。もっと早く気付きたかった。『わからなくてもわかってもらえなくてもいい』って。≫

アンジェロ : きっと大丈夫です、今気づくことができたのならば。

ハーヴィ : (こくり、頷く。)

アンジェロ : ……と、おでかけまえに引き止めてしまいましたね。

ハーヴィ : ≪ううん、昨日も話したいねって言ってたし、お話できてよかった!≫

アンジェロ : それならば、よかった。僕にとっても、あなたとのお話は有意義でした。

ハーヴィ : ≪ありがとね、アンジェロ。≫ ≪オレも、キミのおかげで自分の事がちょっとだけわかった。≫

アンジェロ : お役に立てたようでよかった。


アンジェロ : それでは、当初の予定通り、休眠状態にはいります。いってらっしゃい、ハーヴィ。

ハーヴィ : ≪うん、行ってきます! アンジェロもおやすみ!≫

アンジェロ : はい、おやすみなさい。

ハーヴィ : (少年のように笑みをこぼして。あなたに手を振った。)




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