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新世界


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ハーヴィ : (ぱちりと目が覚めれば、枕元には一枚のチケット。 ……心当たりはついている。ベッドから出ればすぐにジャケットを羽織り。)

ハーヴィ : (……その前に、すこしだけ寄り道。)



ハーヴィ : (何度、確認しても。そこにある文字。)

ハーヴィ : (ちいさな枠。三面記事。そこに書かれたもの。)

ハーヴィ : (要約──『Rabbit Blackout社の製造した兵器・イミテイターの全回収、破棄が本日を以て完了』。)

ハーヴィ : (きっと誰も知らない、ただ一機を除いて。)

ハーヴィ : (社名のロゴがないバーコード。なぜか。”個体登録を抹消されたから”。)

ハーヴィ : (■■2049-MAが放棄個体であったがゆえに、バベルが放棄された都市であったがゆえに、)

ハーヴィ : ("オーナー"が興味のなくしたものをいちいち憶えていない性分であったがゆえに。)

ハーヴィ : ( ──生き延びて、しまったのだろう。)

ハーヴィ : (同時にそこに記された、『生みの親』のインタビュー / 塀の中。娯楽用とは名ばかりの、悪辣な遊びのために作り出された存在。【他人事ではない】。)


ハーヴィ : (新聞を睨んだって、泣いたって、そこに書かれた文字<事実>は変わらない。)

ハーヴィ : (あの愛しいきょうだいたちは、もうどこにもいない。)

ハーヴィ : (この歩みは、墓標だ。"2040から2049"の。)


ハーヴィ : ( ──資料庫を、後にした。)



ハーヴィ : (……やはり、というべきか。少女はそこにいて。)


「入■■入■ チケットを提示してください」
「人間様、ようこそ!」
「そそそそそそ■■■■■■■■■■■■」
[期限切れのチケット] を失った。

ハーヴィ : (もらったチケットを渡してゲートをくぐる)

シュガーポップムーン : (ふわりふわりと風船が浮かぶ中で、少女はサーカステントを見上げるようにして立っていた。)

シュガーポップムーン : (脚先を鳴らして振り返って──)

シュガーポップムーン : ──いらっしゃいませ~っ!ようこそ遊園地へ、なのですっ!(明るい声で、“キャスト”の仕草を一度。)

ハーヴィ : (小さく、身体の重心を片側にずらし。手を挙げる。)ン、

シュガーポップムーン : ……えへへ~っ 来てくれて、ありがとうございますっハーヴィさんっ…… あ!(手首に繋いだ風船を揺らしながら微笑んで、)


コリン : 遅れてわるいっ、二人とも。

シュガーポップムーン : コリン様も、ようこそいらっしゃいませ~っ!(大きく腕を広げて歓迎の挨拶。その動作は“キャスト”のものだ。)

ハーヴィ : ン!! (嬉しそうに声を上げ)

コリン : ん! にしても、久しぶりに遊園地の中まで入ったな。

コリン : 外側までは来るんだけど、チケットが中々見つからないんだよな……。

シュガーポップムーン : わたしに言って下さったら、何枚でもご用意しますよ~っ!………

ハーヴィ : ≪たまに落ちてるけど、ほぼ運だしね……。 あ、そっか。ポップに頼めばいいんだ。≫


シュガーポップムーン : ……また、来て下さるなら、になっちゃうかも…ですけど。(ゆらり。風船が揺れる。)

コリン : あっほんとだ!シュガーにお願いすれば良かったのか……!

ハーヴィ : (つと、視線は周囲の光景に移り。) ≪……できるだけ来たいね。もうあと何日もないけどさ。≫

コリン : だな……。何日もないからこそ、ここに来たいよ。

コリン : シュガーがずっといた場所だもんな。


シュガーポップムーン : …… (端末に浮かぶ文字と、コリンの言葉にどことなく寂し気な笑顔を浮かべた後に、)

シュガーポップムーン : えっとね、あのねっ…… ……今日は、二人に……やっぱりおはなししたいなって……しておかないとって思ったことを、おはなししたくて、ご招待したんです。

コリン : おはなし?(首を傾げる。ここでないと出来ないお話、なんだろうと思いを馳せて)

ハーヴィ : (こくりと頷き)≪前に話してた事、だよね?≫

シュガーポップムーン : (頷いて) はいっ わたしの……初期デザインの、おはなしです。わたしが製造されて、置かれていた本当のステージの……

シュガーポップムーン : (“初期デザイン”の、ステージドレスの裾を控えめに掴む。) ……おはなしするのはこわい、けど、しってほしい、から。

シュガーポップムーン : 二人が……たいせつ、だから、 …いいのかなって思うけど、それでもっ……! ……ちゃんと、一緒に居たい、から……。


ハーヴィ : (ほんの僅か、強張った表情で。)≪ホントに訊いていいんだね、とは、オレももう言わない。≫ ≪聞かせてほしい。きみのこと。≫

コリン : ……(あなたの言葉を全部聞いた後、一度目を閉じる。本当のステージがどういうものなのか、想像はついていない。)(けれどあなたが、大事な友達が、一緒に居たいと言ってくれて、そのために手を伸ばしてくれるなら)

コリン : (にこりと笑う。あなたの瞳と視線を合わせる。) シュガーがそう言ってくれるなら、おれも、聞きたい。聞かせてほしい。

コリン : おれだってシュガーのこともハーヴィのことも、だいせつだもん!

ハーヴィ : (少年の言葉を聞けば、くっついて手を握り。)≪みんな気持ちは一緒、だね。≫

コリン : だな!(握られた手をぎゅっと握り返した。)


シュガーポップムーン : (目の前の少年と青年の言葉。表情。視線。動作。)(今まで過ごしていた事が嘘では無いのなら、意味があるものなら、)

シュガーポップムーン : (──きっと、この恐怖とも一緒に歩いて行ける。)

シュガーポップムーン : ……ありがとうございますっ!わたし、ほんとうに…… まだ、おはなしできてないけど、それでも……今、こうしていられること、うれしくて、よかったって思いますっ!

シュガーポップムーン : (一歩、鋼鉄が音を鳴らす。)

シュガーポップムーン : ──じゃあ、ご案内、しますねっ!

ハーヴィ : ン!(ただそれだけの返事。けれどありまま、あなたの言葉への肯定だ。)

コリン : うん、(一歩、踏み出す前に深呼吸をした。どんな話をされても、あなたを好きでいよう。そう言った決意を込めて。)

コリン : (それから、あなたの後ろに続いていった。)


シュガーポップムーン : もうひとつ、特別なチケット……が、こちらですっ!(両手で風船を渡すイミテイターを示した。)

コリン : ……風船?

ハーヴィ : ……?

シュガーポップムーン : (二人に用意されたチケットに描かれていたのと同じ、風船。)(ゆらゆら、ふわふわと揺れて、誰かに掴まれるのを待っている。)


風船が風に揺れている。
「koんにちワ! 風船いる?る?る?」
「目が覚める頃には萎んでいるから気を付けてね」
ハーヴィは[手に風船]になった
コリンは[手に風船]になった

ハーヴィ : (風船を受け取り)

コリン : (不思議そうにしながらも、疑うことはない。同じように。)

シュガーポップムーン : (キャストイミテイターはいつも通りに“客”に風船を渡していく。)

シュガーポップムーン : はいっ!風船、オッケーですね~っ! 次はこちらですよ~!(と、少女は笑顔でサーカステントの方へ向かった。)



シュガーポップムーン : (そうして辿り着いたのは、一体のイミテイターの目前。)

シュガーポップムーン : (休みなくジャグリングを続けるそのイミテイターへと挨拶をして、それから風船を揺らす。)


ジャグリングを行っている。

シュガーポップムーン : (何度も。)


ジャグリングを行っている。
ジャグリングを行っている。
ジャグリングを行っている。
ジャグリングを行っている。

シュガーポップムーン : ご案内、お願いしま~すっ!


……?

ジャグリングを行っている。
ジャグリングを行っている。
ジャグリングを行っている。
ジャグリングを行っている。

コリン : (いつかあなたが見せてくれた、特別かっこいいジャグリングを思い出す。)(風船はしっかり手にあった。)


ジャグリングを行っている。

シュガーポップムーン : (何度も。)(何度も。)(何度も。)(繰り返して。)


ジャグリングを行っている。
ジャグリングを行っている。
ジャグリングを行っている。

ハーヴィ : (見様見真似、繰り返し)


ジャグリングを行っている。
ジャグリングを行っている。
ジャグリングを行っている。
ジャグリングを行っている。

あなたはパレードの一員にされた。


ハーヴィ : ≪ここ……≫

シュガーポップムーン : (一瞬、白昼夢の様な眩み。)(気付けばそこはセントラル・ストリートの奥、パレードの道中だ。)

コリン : ……!?うお、ど、どうなってんだ……!?

コリン : (秘密の入口は、得てして一度知ってしまえばただの入口となる。けれど、原理が分からなければ、それは未だ秘密の入り口足りうるのだろう。)(まだ少しくらくらしたまま、あたりを見渡した。)


シュガーポップムーン : えへへ……ご案内、です~っ(ふわふわ浮かぶ風船の群れにぶつかられながらも笑って、)(笑って。ここは笑顔が似合う場所。)

ハーヴィ : (すこしばかり戸惑いながらも、続く。少女の足取りが道しるべ。)

シュガーポップムーン : (風船の中、姿が紛れながらも少女は進んでいく。)

コリン : (見失ってしまわないよう、隣の青年の手を握って追いかける。風船をかき分けて、奥へ、奥へ。)


シュガーポップムーン : どうぞ、お進みくださ~いっ!(先を示す。暗がりに続く、地下への階段が見える。)

ハーヴィ : (繋いだ手は離さないまま。示された先の階段、地下。 ……地下。こんな遊園地に。)

コリン : ん、……(あなたの案内のまま、慎重に足を踏み入れる。そうしたのは、足元が暗いだけではない。背骨までもが冷えるような底知れなさが、あったからだ。)


 

コリン : なんだ……?ここ……、

シュガーポップムーン : (少女は歩を進めて、扉を開く。)

ハーヴィ : …………

コリン : (不安げにあたりを見渡しながらそれに続いた。)

シュガーポップムーン : (中央に広がるステージ。周囲の客席は劣化で崩落している部分も見える。停止したイミテイターと、損傷の激しい“予定表”と、それから、)

シュガーポップムーン : (ステージの隅や、奥の通路の先に転がる──いつか誰かで何かだった、スクラップの破片。)


ハーヴィ : (イミテイターとしてこの街で暮らした、知識の端々。あなたがこころを取り戻したあの時の吐露/憶測 = 考えたくもないことを考えて / けれど目の前のそれが / 現実で)

ハーヴィ : ≪|   ≫ (ちか、ちか、胸元の端末が明滅したまま。)

コリン : (最初の印象は「廃棄場みたいだ」。)(けれど、それは客席が否定している。)(じゃあここは、一体なんだ?暴走したイミテイターを保護でもしてたのか?)(それもやはり、同じものが否定する。)(客席があるということは、"見世物"が行われていたに違いないのだ。)(それが何であるか、コリンには想像がつかなかった。)

コリン : (ただ、嫌な予感と拒絶感が、胸の内に渦巻いている。)


ハーヴィ : ≪──≫

コリン : なに、なんなんだよ、ここ……。

ハーヴィ : ≪コロッセオ、あるいはコロセウム。≫

ハーヴィ : ≪……で、合ってる? ポップ。≫

シュガーポップムーン : ………。(少女は一度目を伏せ、静かに笑みを浮かべて。)(それは人間で言えば深呼吸。何故か動かなくなりそうな口を動かすための予備動作。)

ハーヴィ : (■■2049-MAは、とても勤勉なイミテイターだった。だからこの街の、ラインシャッハの歴史は ──それを見て思い当たる節がある程度には、理解している。)

コリン : コロセウム……、って戦う場所、だよな……!?誰と誰が……!(すぐ考えれば分かること。案内ができるということは、あなたはこの場所をよく知っているのだから。)

コリン : (迂遠な言い回しをしたのは、無意識だ。そんなことを考えたくなかっただけ。)

ハーヴィ : (『戦わせるわけないだろう。ラインシャッハが』。『人と人を』。嘘と隠し事が下手な端末を、必死に制御して。この先は、少女が伝えなければいけない事。)


シュガーポップムーン : (やがて眼を開けて。片脚でバランスを取って、大きく片手を挙げる。)(ステージに立つキャストのように。)

シュガーポップムーン : わたしは≪Butcher Doll Female type-02≫、ポップにシュガーな真珠のおつきさま!シュガーポップムーン!

シュガーポップムーン : ブッチャードールはかわいくかっこよく美しく、破壊して、破壊されて!みなさまにドキドキワクワクのスリルをお届けします!

シュガーポップムーン : (そんな謳い文句が、寂れた空間に響いた。)


ハーヴィ : (まっすぐ見つめる。俯きたくても、目を逸らしたくても、それは許されない。)

ハーヴィ : (……許されないのだ。)

コリン : (唖然とする。「破壊して、破壊されて」 そんな風に例えるのは、イミテイター同士の時だけ。)(外からやってきた少年でも、その程度の事は分かった。……分かってしまった。)


ハーヴィ : ≪……まさか、こんな近くに"いた"なんて。≫ (やっと絞り出せたのは、そんな文字。)

コリン : な、 なんで、そんなこと、させるんだっ……!?

コリン : シュガーは、イミテイターってのは、壊すために作ったわけじゃないだろ!?

ハーヴィ : ……

ハーヴィ : ≪それを、≫

ハーヴィ : ≪オレたちに≫ ≪ポップに≫ ≪言わせるのは≫ ≪酷だよ≫


シュガーポップムーン : ………、(そっと片脚と片手を下げる。)(少年と青年の反応に、やはりこれは、一部の人間様だけを笑顔にするものだったのだと再認識/学習しながら。)

ハーヴィ : (一行ずつ、文字。言葉とは裏腹に、繋いでいた手は少年の手を離れ、肩を抱き寄せる。)

コリン : っ……、(拳を握る。少年は人間だけれど、子どもで。大人たちの考えることを遠ざけて来た。)(だから、本当に、どうしてこんなことをするのかちっとも理解が出来なかったのだ。)

コリン : (肩を抱き寄せられて、この時ばかりは悔しさでいっぱいになった。いつもだったら特別嬉しいはずことなのに。)

コリン : (理解が出来ないことが、それをシュガーにぶつけてしまったことが、自分が子どもだってことを突き付けられる。)

シュガーポップムーン : ……ごめんなさい。どこかを痛く、させちゃって。


ハーヴィ : ≪分かれとは言わない。けど、分からなくていいとは言えない。≫ ≪オレは分かりたくない。けど分からないといけない。≫ ≪ポップが一番分かりたくなくて、一番分かってるはずだから。≫

シュガーポップムーン : ………。

ハーヴィ : (文字、羅列。少年と少女と、己の心に向けられたもの。)

コリン : (シュガー、あなたの言葉には首を振る。痛いのはあなたの方だ。)(ハーヴィ、あなたの文字にはひとつ頷く。シュガーの痛みを見て見ぬふりはしたくない。)

ハーヴィ : ≪……お願い。 『イミテイター』を、『シュガーポップムーン』を、知ってほしい。≫ ≪オレと一緒に。≫

コリン : うん……、うん。 分かった。 知りたいって、聞きたいって言ったのは、おれだから。

シュガーポップムーン : ……ありがとう、ございますっ …わたしも、知ってほしいです。わたしのこと、此処のこと、……ここにいたみんなのこと。

コリン : (ふたりの肩越しに、何者かだった破片が見えた。)(彼らのことも、きっと知らなければならならない。)


ハーヴィ : ≪……オレたちは、ここで起こったことを、きみが話すこと、全部受け入れる。≫ ≪きみたちの心も。全部。≫ ≪納得いかなくても、必ずそうする。≫

コリン : (あなたの言葉に頷く。)約束する。シュガーと、ハーヴィとー、おれたちの仲に誓って。

シュガーポップムーン : ……うんっ!(浮かんだ文字と少年の言葉にそう返す。安堵と、謝罪と、感謝が入り交ざったそんな返答。)(笑顔で、明るい声色で、)

シュガーポップムーン : (シュガーポップムーンはどんな涙だって流せない。)


シュガーポップムーン : わたしたちきょうだい……Butcher Dollと、たぶん、ほかのイミテイターたちも。戦って、戦う姿と、その結果で人間様を笑顔にする役割で製造されたんです。えっと、他にも“上”の遊園地のお仕事もあったんですけどっ

シュガーポップムーン : 壊れたら直して、直したら壊して、直せなくなったら次……

シュガーポップムーン : (壁に貼られた予定表を見上げた。損傷と埃とで見えない名前は多い。)

ハーヴィ : (話を遮らないよう、みじかく、少年へ。) ≪ジレイが言ってたの、覚えてる?≫

ハーヴィ : ≪イミテイターは、安く、たくさん作る事ができる。≫


試合予定表が張り出されている。
古い日付から更新されていないようだ。
一部は損傷が激しく読み取るのが難しい。

スパイダーシャーク vs ベジタブルザウルス
イヌキングタイガー vs スーパーDXマンドラゴラ
ペッパーショックギャラクシィ vs シュガーポップムーン

コリン : 言ってた……(同じようにして、予定表を見上げた。青年の声に短く頷く。)

ハーヴィ : (少女の名前が書かれた予定表。直して大事にするよりも、きっと遥かに楽だったのだろう。そこにある【 】を無視すれば。)

シュガーポップムーン : ……わたしも、たくさん破壊して、破壊されました。それがわたしの役割で、人間様がドキドキワクワクして、笑顔になって、褒めて頂いて……

シュガーポップムーン : でも、きっと、

シュガーポップムーン : それって、たくさん、殺してきたって、こと、なんだなって。

シュガーポップムーン : ……“セイラさん”と、ほんとうの姿でお話するときに、先にお話したんです。そうしたら、やっぱりそういうことなのかなって、思って。


コリン : (安く作れて、壊れたって人より簡単に直せる!逆らうこともなくって"誰も傷付かない"!)(少年はそれを、素敵だとは欠片も思えなかった。)

コリン : (でもそれを、魅力的に思う誰かがいたからこそ、この場が作られたことをようやく理解する。)

ハーヴィ : ≪それはオレも変わらない。≫ ≪……ううん、ポップとは、きっと比べ物にならないくらい軽いけど。≫ (青年の業務 ──荒野の暴走イミテイターの掃討。"指先ひとつで一掃できる程度には" 慣れている/壊している/終わらせている。 ──スクラッパー、と呼ばれる所以。)

ハーヴィ : ≪……そうか、あの子もここに来たのか。≫


シュガーポップムーン : そう、かな?そう、なら……そうなのかも、ですっ えへへ…… ……(曖昧な声を発して、思考、演算。)

シュガーポップムーン : 人間様に喜ばれる事で、でも、誰かの痛いになることで、でも、笑顔には出来ていたことで、でも今は、笑顔にできてないことで、

シュガーポップムーン : とっても、むずかしい、ですねっ ……

ハーヴィ : ……


コリン : おれは……、おれはシュガーに笑顔で、いてほしい……って、思ってる。

コリン : 無理にじゃなくって……、シュガーに、笑いたいって思ってほしい。

ハーヴィ : (首肯。)≪少なくとも、ポップを知ってるオレたちは、ポップが傷付いたことも、ポップが傷付けただれかの事も。笑顔にはなれない。≫ ≪ポップが悪いからじゃない、ポップに、ここのみんなにそうさせた事を許しちゃいけないからだ。≫

ハーヴィ : ≪……許しちゃいけないのに、この国ではそれが”許される”。≫


シュガーポップムーン : そうさせた、こと…… …… でも、そうだったから、わたしも、きょうだいのみんなも製造されて、

シュガーポップムーン : こうして、出会えた。

シュガーポップムーン : 許されないなら、きっとそうかもしれないけど、……でも、全部が全部、嫌ってわけじゃないって、変……かな。

コリン : ……、ううん。そればっかりは、ほんとだもんな。

ハーヴィ : …… ≪オレも、”オーナー”の気まぐれで、全部めちゃくちゃにするために作られて。≫ ≪”オーナー”が興味をなくしてここに捨てて行ったから、ふたりに会えた。≫

ハーヴィ : ≪……何に感謝したらいいんだろうね。≫ ≪難しいよ。けど今が幸せなのはほんとうだ。≫

コリン : 感謝なんかしなくてもいーんだよ、きっと。ひどいことしたのは間違ってねーんだもん。

コリン : その"オーナー"や、シュガーたちに戦うようにさせた奴らには、ざまあみろ、って言ってやれば良い。

コリン : どんなにひどいことがあったって、おれたちで、ハッピーエンドで終わらせてやる。

シュガーポップムーン : コリン様……


ハーヴィ : (──独白。少年の言葉を聞きながら。この場だから言えること。この先を歩いていくために必要な事。)

ハーヴィ : ≪……生まれてきたくなかった。≫

ハーヴィ : ≪けど、生きていてよかった。≫

ハーヴィ : ……

ハーヴィ : (端末は沈黙した。)

シュガーポップムーン : ハーヴィ、さん……。 ……(端末の文字を追って、)

ハーヴィ : (ここは静かだ。目を閉じれば、少女の声も、少年の息遣いも、よく聞こえる。)

ハーヴィ : (──自分の鼓動も。)


シュガーポップムーン : ──要らないものは燃やさなくちゃ。だからきっと、次はわたしの番。おにいさまと戦って、さよならした後、ずっとそう思ってた。

シュガーポップムーン : でも予定表の最後が来て、次は無くなって。終わりが欲しいままずっと続けてて──でも、終わりが欲しくなくなったの。

シュガーポップムーン : みんながたいせつにしてくれたから。……わたしが残って、たいせつにしてもらって、それは他の皆にとって、いいことかどうかって、思う時もある、けど。

シュガーポップムーン : (かつり、かつり。)(硬い脚音が響く。)


録音された歓声が自動再生された。

シュガーポップムーン : (ステージに立つ。見回して、)

シュガーポップムーン : みんな、ここにいたんです。ここで過ごしたんです。ここで……生きてたから。

シュガーポップムーン : それをわたしの中に込めて、一緒に連れていけるのは、わたしにしかできないことだから。

シュガーポップムーン : だから……二人と一緒に、生きていきたいの。

ハーヴィ : (ステージからは観客席がよく見える。観客席からも、よく見えただろう。)

ハーヴィ : (彼女たちの“生き様”が。)


ハーヴィ : (少年の手を引く。彼女の下に、行かなくては。)

コリン : (少年は、誰かを殺したことはない。)(暴走したイミテイターを1、2度相手にしたことはあったとしても、意思残る誰かを、知っている誰かを、同胞と呼べる種族を、殺したことはまだ。)

コリン : (だからきっと本当の意味であなたのことを理解するのは、まだ遠い。)

コリン : (それでも。)(その気持ちも、願いも、一緒だと、そう確信を持っていた。)

コリン : (手を引かれると同時、踏み出して。)


ハーヴィ : (手を伸ばす。マリオネットの腕。操る者も繰り糸もない、ただの生き物の腕。)

ハーヴィ : (ふたりぶん、抱き寄せて。)

コリン : (ほら、考えてることは一緒。)(ぎゅう、と抵抗することなく、二人に短い腕をうんと伸ばす。)

シュガーポップムーン : (何度も打ち鳴らした脚先は今はそっと音を立てて)(グローブで誤魔化された、イミテイターらしく線の入った腕を伸ばして)(たいせつなひとたちに、熱に、生命に身を寄せる。)


ハーヴィ : (──ああ、ねえ。『聞いてほしい』な。一緒に生きていくために、たくさん考えて。やっと心の底からを、今ならできるから。)

ハーヴィ : (実行コードは、≪LIKE TEARS IN RAIN≫。 息を吸い込んだ。)

ハーヴィ : ずっと、ずっと一緒だよ。

ハーヴィ : (その声には、心には、ただのひとつもずれがない。)


シュガーポップムーン : ───、

シュガーポップムーン : (見開かれた瞳。中にデザインされたきらめきは、嘘でもなんでもなく。)

シュガーポップムーン : (左頬のしずくのペイントが、流せない涙の代わりに微かに光を反射した。)


コリン : (嬉しさに驚いて、顔を上げる。)(きっと今だけの、信じられないような奇跡。)

コリン : (もっともっと身を寄せて、痛くないくらいに抱きしめる。)うん!おれたち、ずっと一緒だ!

シュガーポップムーン : ──うん、 ずっと、ずっと一緒だよ。

シュガーポップムーン : ……コリン、ハーヴィ。わたしを気に掛けてくれて、受け入れてくれて、 ……見つけてくれて、ありがとう。

シュガーポップムーン : 大好きよ。


コリン : (思い出はいずれ時間の中で溶けていく。そうだとしても、この時が無意味なはずはない。)

ハーヴィ : (≪#L = T " I" R≫と名付けられた、ちいさな奇跡。すごく疲れて、大変で、そのくせ出来ることは少ないけれど。)

コリン : (この誓いにも似た言葉が嘘であるわけではない。)

コリン : (あなたたちの愛が一人ではないことを教えてくれたことだって、変わらない事実だ。)

ハーヴィ : (選べる言葉は多くない。出来る回数も多くない。だから、大事なことだけを選び取って。)

ハーヴィ : (──もう一度だけ。)


ハーヴィ : オレも。愛してる。

ハーヴィ : (きっといつの日か、ずっと欲しかった言葉。)

ハーヴィ : (今はもう、贈るための言葉。)


コリン : ハーヴィのことも、シュガーのことも、大好きだ!

シュガーポップムーン : あい、 (顔を上げて、かつて一緒に此処に立ったきょうだいたちを思い出す。)(愛を語ることのできた兄と姉の演算に、ようやく自分も追いついた。)

シュガーポップムーン : そっか。これが、愛してるってこと、なんだ。


シュガーポップムーン : (“この身は人ではなく、”)(“されど意思の無い土くれでもなく、”)

シュガーポップムーン : (炉心≪こころ≫は確かに此処に在った。)


ハーヴィ : (嬉しそうに小さく声を上げる。奇跡の時間は終わって、またいつも通り。)

コリン : (シュガーの言葉に、嬉しそうにまた笑みが零れる。)(それから得意げに)

コリン : これからもこうして、泣きたくなったり悲しくなったりしたら、おれやハーヴィのこと抱きしめていいぜ!

コリン : ハーヴィだって、おんなじようにおれやシュガーのこと抱きしめていい!

コリン : もちろんそうじゃないときも!!

ハーヴィ : ン~!!(言われれば、すぐにでも少年に抱きつき)

コリン : (ぎゅ~!)

シュガーポップムーン : えへへっ うんっ!

シュガーポップムーン : ぎゅ~っ!(なんて、声を出して二人に更に抱き付いた。)

コリン : ぎゅ~!だ!(暖かさに身を埋める)

ハーヴィ : (言葉にならない声に、何度か嬉しそうな音が、笑い声ににたものが混ざり。しばらくの間そうしているだろう。)

シュガーポップムーン : (寂れた闘技場に少年と少女と青年の声が響く。)(止まっていた時間が今はひとつずつ音を立てて進むような、この場所との別れへと進んでいく感覚は寂しいままだけれど)

シュガーポップムーン : (寂しいだけではない。)


シュガーポップムーン : (そんな風な感覚を抱えつつも) ん、 じゃあ……上、戻る?

ハーヴィ : (ゆっくりと、名残惜しそうに二人から離れて。……そうしないと言葉が届かないから。)

ハーヴィ : ≪そうだね。……ポップはもういいの?≫

コリン : (温もりが離れていけば、自分もそのように。心はずっと温かいまま。)

シュガーポップムーン : もういいのか、って聞かれると、よくわからないけど…… (二人から身を離した後、ぐるりと周囲を見回して)


シュガーポップムーン : (口を開く。声を出す。場と、いつかの誰かと、そこにある今に対して。)

シュガーポップムーン : ……みんな、さよならだけど、さよならじゃなくって、わたしと一緒に……わたしっていうパレードになって、進んで行こうね。

シュガーポップムーン : (きっと、これが区切りの挨拶。)

ハーヴィ : (微笑みと共に、彼女と、彼女が連れて行くものたちを見るだろう。)

コリン : シュガーの行く道は絶対良いものにするから、安心していいぞ!(この場から一歩踏み出す前、シュガーの手を握った。)

シュガーポップムーン : うんっ!(笑顔を向けて、握られた手を握り返す。)

ハーヴィ : (少年がそうすれば、自分は少女の握られていないほうの手を取り。今日の主役はあなただから、真ん中だってそうなのだ。)


シュガーポップムーン : (間に立って、別々の形の手をしっかりと握った。片方は人。片方はイミテイター。)(それから手を引いて出口の方へと歩き始める。)


録音された歓声が自動再生された。

シュガーポップムーン : (最後に少し振り返ってから、)

シュガーポップムーン : (地上へと歩を進める。)



コリンは[霧カウンター]を1つ獲得した。
ハーヴィは[霧カウンター]を3つ獲得した。

シュガーポップムーン : はっ!

コリン : うお!

ハーヴィ : ン!

シュガーポップムーン : あわわ~っ!霧!びゅびゅーんってもどらなくっちゃ!

コリン : だな!あんまり吸い込まないようにしねえと……!

ハーヴィ : ≪危なくなったら一回建物入ろうね!≫

シュガーポップムーン : うん!



ハーヴィは[霧カウンター]を4つ獲得した。
コリンは[霧カウンター]を2つ獲得した。

「さようなら!さようなら!さようなら!」

シュガーポップムーン : 危なそうなら…お屋敷、お邪魔する?

ハーヴィ : ≪これ、ちょっと社宅行くの無理そうじゃない?≫

コリン : むずかしいかも……。

シュガーポップムーン : ばっどたいみんぐ……!

コリン : テラの屋敷借りるかあ

ハーヴィ : ≪お邪魔しちゃお。怒んないから平気だよ。≫

コリン : ん!

シュガーポップムーン : じゃあ、ごーごー!



シュガーポップムーン : 避難避難~っ

コリン : 邪魔するぜ~

ハーヴィ : ン!!!(お邪魔します!!!の意)

シュガーポップムーン : おじゃましま~っす!

シュガーポップムーン : えへへ……こっちのお部屋、お借りしよっか

ハーヴィ : ≪あ、ちょっとごめんね。≫ (と言って、マナコネクターで補給をし)

コリン : だな。他の部屋は他の奴らが使ってるだろうし……。


イミテイター向けのマナ充填ポッドだ。
ハーヴィは20のSPを回復した。  
ハーヴィは0回復した。  

コリン : 借りるぜ~

シュガーポップムーン : (とと、とコネクタでこちらも補給をして)


シュガーポップムーンは20のSPを回復した。  
シュガーポップムーンは0回復した。  

ハーヴィ : ≪喋るとお腹すく……。≫ (要するに消費するマナが大きい、ということらしい。)

シュガーポップムーン : えへへ~…… お話してくれてありがと!すっごくびっくりして、でもうれしかった!

コリン : うん!嬉しかった!ハーヴィがそうやって伝えたいって思ってくれたことも!

ハーヴィ : ≪デバイス新調したおかげでね。色々ややこしいから、ああやって少ししか喋れないけど。≫

ハーヴィ : ≪でも、やっと自分の声で話せるようになった。オレも嬉しい!≫

コリン : あれそんなことも出来んの!?ハーヴィすげえ……!!

シュガーポップムーン : すごいすごい!ハーヴィさん…… ハーヴィの進化!だね~っ!これからも元気でエネルギーも余裕があるとき、声が聴けたらうれしいなっ


ハーヴィ : ≪ああ、あれ、自分で自分をハッキングして無理矢理動かすシステムだからね。クラック出来る部位なら結構いろいろ……。≫ (ぶつぶつと端末が語り、途切れ)

ハーヴィ : ≪とにかく! これからもお話しようね!≫

シュガーポップムーン : うんっ!やったー!

コリン : ああ!時々でもお話ししようなっ!

ハーヴィ : (にぱ!)


ハーヴィ : ≪さて、補給も終わったし。ここの部屋でいいよね?≫ (と、一番手前の部屋を指差した)

コリン : ん、だな。前も借りたし。

シュガーポップムーン : うんっ ぎゅぎゅっとおやすみなのですっ!ふふふ~

コリン : (手をつないだまま、引くようにベッドへ)

シュガーポップムーン : (引かれるがまま、ベッドに寝ころんだ。)(小さく肩を揺らして笑って)

シュガーポップムーン : 今日も一緒に、おやすみなさい、だ~っ (嬉しそうに言葉にする。)


ハーヴィ : (頷き。……と、思い出したように)

ハーヴィ : ≪そうだポップ、あのさ、ここを出る時に、映画館のフィルム……リリアねえが出てるやつ、もらえないかな?≫

ハーヴィ : ≪だめならいいんだけどさ、≫

シュガーポップムーン : おねえさんの、映画のフィルム…… ううんっ!わたしも、ハーヴィに渡したいっ!

コリン : あっ、おれも見たい!

シュガーポップムーン : 映画館のイミテイターとお話して、一緒に持っていけるよう、やってみるねっ

ハーヴィ : ≪ほんと!? よかった! それじゃあここ出たら見れるように映写機探さないとね!≫


ハーヴィ : ≪いっそ作るか、調べて……≫

シュガーポップムーン : つくる

コリン : じゃあおれもリーンの周り探して……、作る?

コリン : たしかに、ハーヴィだったら作れそうだよな!

ハーヴィ : ≪自己クラック機能付きのワイヤー操作用デバイスよりは簡単でしょ。≫

シュガーポップムーン : じゃあじゃあっ、作るなら材料とか、探そうねっ

コリン : だなっ!バベルでも材料になりそうなものないか、探すよ!

ハーヴィ : ≪うん。リーンからだったら材料探しも楽そうだし、困ったらゼータもいるしね!≫

シュガーポップムーン : うんっ!

コリン : へへ、また楽しみが増えたな!

ハーヴィ : ン!!


シュガーポップムーン : この先も、一緒に楽しい事、たくさんしようねっ(つないだ手に少しだけ力を込めて、それから緩めて。その熱をよく感じるように目を伏せる。)

コリン : おうっ、約束!(ぎゅっと手を握って、身を寄せて、目を閉じる。)

ハーヴィ : (頷き、そして端末を外す。言葉をいくつか話せるようになっても、言葉の外で伝えられる気持ちがある事には変わりない。)


コリン : (きっと今日も穏やかに眠れる。この温かさがある限り、これからもずっと。)

ハーヴィ : (──少女は。シュガーポップムーンと言う名のパレードになってこの先を歩き続けるのだろう。)

ハーヴィ : (青年もまた、己の歩みに名前を付けた。内に秘めた想い。大丈夫。あなたたちとまた出会うため、明日も目覚めれば。)


シュガーポップムーン : (人で無い身に、人でないからこそ歩めた道で出会って触れたものを詰め込んで歩いて行く。たいせつな二人は自分の内側と外側に。)(だから暗い夜の中でも、明るい日向の中でも、輝いて行けると信じてる。)


ハーヴィ : (「愛してる」。もう一度だけ心の中で繰り返し。── 一晩だけさよならをして、また明日。ずっとずっとこの先も、そうして生きていけますように。)




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