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LOGS

結実


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コリン : (起きてから、道を覚えるために、知らぬイミテイターを探すために、街をぐるりと一周する。この街に来てから出来た習慣だった。)

[2049] : (瓦礫の陰、人が一人入れるかというほどのスペースに、瓦礫とはすこし違った塊が見えるだろうか。)

[2049] : (汚れた毛布にくるまって、地べたで丸くなっているそれは。)

[2049] : (まるで眠っているように見える。)


コリン : あ……。(ここであなたがスリープモードに入っている、あるいは"眠って"いるのは知っていた。)(あなたの機構は今でも、人を再現- こきゅうを -しているだろうか。)

コリン : (一歩、二歩。確かめるように近付く。)

[2049] : (穏やかに、伸縮する身体。深呼吸の、あるいは寝息の、)

[2049] : (── と、規則正しい動きが止まり。僅かに身じろぎする。)

[2049] : (ぱちり、ゆっくりと目を開く。 ……起き上がって、数秒、停止。寝ぼけたみたいに。)

コリン : (他のイミテイターには見られない機構。初めにあなたに会った時に"人"だと思った理由の一つ、もっともらしい嘘。)(それでも、少年を騙すには充分。)


[2049] : ……。(よく見れば、その傍らには汚れたぬいぐるみが転がっている。)

[2049] : (そうして、)

[2049] : (”目をこすりながら” あなたを見た。)

コリン : ……(普段なら自然と「おはよう」の言葉くらいは出てくるものだが。昨日にし損ねた質問がまだ、喉元に引っかかっていた。)

[2049] : ン…… (気怠そうに起き上がり、ぬいぐるみに付いた埃を払う。瓦礫の中から這い出てくる。)

[2049] : ≪コリン。どうしたんだ、こんな所に。≫ (そうしていつものように、文字が浮かぶ。)


コリン : (ただ近くにあっただけかと思ったぬいぐるみの埃をわざわざ払っているのを見るに、あなたの持ち物なのだろう。人形が、人形を、愛でている。少年にはそう映る。)(……なぜ?)

[2049] : ≪ここはコリンが見ても面白いような場所じゃないと思うんだけど。 ……あ、おはよう。≫

コリン : うん、おはよう……、2049。 さっき起きたところだから、ちょっと街を一周してたんだ……。

[2049] : (昨日にも増して、砕けた口調の文字が並ぶ。)

[2049] : (どこか浮かない様子の少年に ──どこか? 何を今更 / 思慮するように首を傾け)

[2049] : ≪そっか。……今日もどこか行くの? 昨日、話したい事があるって言ってたと思うんだけど。≫

[2049] : ≪その、見ての通り、こっちも今起きた ので≫

[2049] : (歯切れの悪い、文字。)

コリン : (あなたの印象はどんどん変わっていく。舞台の演目が変わることなんて、少年は想定していなかった。)(燻っている不安の炎が小さく揺れて、ほんの少し身を焼いた。)

コリン : いや、今日は……。うん、 2049に聞きたいことがあんだ。

[2049] : (予感、あるいは確信。)(だって)(最初に舞台に上がったのは自分だから。)

[2049] : ≪……ああ。オレも、コリンにしたい話がある。≫

[2049] : (”オレも”。)

コリン : 2049も……?("わたし"ではなく、"オレ"という一人称。)(噓が剝がれていく。)("したい"と自らが望むような言葉。)(昨日から繰り返されてきた、あなたの意思。)

[2049] : (頷いた。そこにある、確かな意思。)


[2049] : ≪聞かせて。コリンの聞きたいことを。たぶん…… オレが話したい事は、それの答えだ≫

[2049] : (まるで、人の気持ちがわかるとでもいうように。傲慢な人擬きが、言葉を繰る。)

コリン : ……(ほんとかよ、と聞こえない程度に呟いたのは、反抗心だ。)(大人だっておれの気持ちが分からないのに、)

コリン : ……前にさ、おれの命令と国の命令、どっちを選ぶのか、聞いただろ。(それでもあなたに問うことは止めない。ここで引き返すのは癪だったから。ただ、それだけの子どもの意地。)

[2049] : (拾い上げたままのぬいぐるみを、手の中で弄び。時折撫でるような仕草。──手が止まり、あなたの目をまっすぐ見つめる。)

[2049] : (頷いた。続きを促す。)

コリン : 2049は国だって言ったよな。おれの命令は、下位だからって。

[2049] : ……。

[2049] : (またひとつ、頷くだろう。)

コリン : じゃあ、おれの命令は……(じっと縋るように、睨むように、あなたに見る。)

コリン : 2049の機構- このみ -よりも、優先される、よな……?(やけに自信がなさそうなのは、あなたの昨日からの行いを見てきたから。)

コリン : (あなたの、意思があることを認めずとも理解してしまったから。)

コリン : (だから今口にしたのは子どもの駄々だ。)

コリン : (もしも、あなたが自身を"生きている"と定めるのならば、あなたのことを"フィギュア"のように想っている少年の考えは、)(少年- にんげんさま -のちっぽけなプライド、世界の中心は自分が良いというプライドは、)

コリン : (打ち砕かれるべきだ。)


[2049] : (ゆっくりと瞳を閉じ、鼻先が少しばかり空を向く。偽物の呼吸が、ただの空気の出入りが、ふう、とおおきな”息を吐く”。)

[2049] : (そうして戻した視線の先、開かれた瞳が、おもちゃめいた模様の入ったそれが、あなたを映している。)

[2049] : (あなただけを、映している。)

[2049] : ≪──≫

[2049] : ≪いいや。≫

[2049] : ≪オレが、きみの願いを聞くとしたら、それは≫

[2049] : (幕はもう、落ちている。舞台の終わり、カーテンコール。そこにいるのは、)

[2049] : (さっきまで、それを演じていた『誰か』。)

[2049] : (この人形も、また。)

[2049] : ≪……オレが、そうしたいと思うから、そうするんだ。≫


コリン : ……!(無機質な表示板に、あなたの意思が反映される。)(2049としてではなく、イミテイターとしてではなく。少年の知らない、隠されていた『誰か』の意思が。)

コリン : な、でも、っ(目の前にしてなお、いいや、目の前にしたからこそ、少年は認めるのを嫌がった。動揺して、食い下がる。)

[2049] : (下がった眉尻は、どこか悲しげで。作り物が作った顔色のほんとうは、一体どこに。)

コリン : じゃあ、あの時っ 国って答えたのは、何でなんだよ……!!最初に会った時、2049は、あんたは、言っただろ!? イミテイターは人間のためにあるって!!

コリン : なら、人間"様"を一番にするんじゃないのかよ!?("様なんかつけなくてもいい"と何度も言ったのは、少年だった。)(けれど無理に止めさせることはなかった。)(敬われることが嫌いなこどもなんて、早々いない。)


[2049] : ≪それは、≫

[2049] : ≪嘘じゃない。≫(嘘じゃない。)

[2049] : ≪うそじゃない。イミテイターは人間のためにある。それは、うそじゃない。≫

(うそじゃない。)

[2049] : ≪けど、矛盾もしないんだ、コリン。≫(ウソじゃない。)

[2049] : (ウソじゃ / ない)

コリン : 嘘じゃないなら、何だって言うんだよっ……!!

[2049] : (ひとつひとつ、断ち切らないといけない。嘘を、隠し事を、まちがいを、呪いを。)


[2049] : ≪メセムが言ってただろ。『イミテイターは思考する』。≫

コリン : (思い出す。頭をとんと叩く仕草。)

[2049] : ≪人間の奴隷に、権利はない。けどものは考える。矛盾しない。≫ (出てきたのは生々しくて、グロテスクで、だけどそうとしか言いようのない、たとえ話。)

[2049] : ≪矛盾しないんだよ、コリン。 イミテイターは人間のためにある。人間と同じである権利はない。≫

[2049] : ≪でもオレたちは考える。程度は違くても、みんな自分で≫≪考える。≫

[2049] : ≪オレは、≫

[2049] : ≪『考えないイミテイター』の、≫(文字が止まる。ずっと、ずっと昔から。あなたと出会う前からつき続けていた嘘を、明かすとき。)

[2049] : ≪──”フリ”を、していた。≫


コリン : (少年のいた国に奴隷という制度はなかった。けれど、聞いたことはある。)(衣食住を与える代わりに、主人の言うことをずっと聞いてくれる存在。逆らわなくって、忠実で従順で。……けれど時に牙をむく者もいるという。)

コリン : なんで、そんなこと……。道具に、思考なんて……、(不安だった。考えることであなたが自分に牙をむくのではないかと。それが当然の権利なのに。)(イミテイターは道具では、ないというのに。)

[2049] : ≪そんなの、オレが知りたいよ。≫(少年の不安をよそに、イミテイターは、思考する道具は動かない。ただ悲し気に俯くばかりで。)

[2049] : ≪コリン、オレがきみを『羨ましい』と言ったのは。≫

[2049] : (はじめて会った日の、うその中に混じったほんとうを、)

[2049] : (ついぞ気付かれずに『やり過ごせてしまった』その心。)

[2049] : ≪人間が、じゃない。心があることが、じゃない。心を、感情を、自由に見せられることが≫

[2049] : ≪とても羨ましかった。  オレはずっと、できなかったから≫

[2049] : ≪──怖くて。≫


コリン : (あるいは、少年が優しい嘘に浸っていたかったが故に、気付かないふりをしていた。あなたがちらりちらりと、舞台袖から見せてくれていた本当を、)(ページをめくるように、読み聞かせをするみたいに、優しくあなたは教えてくれる。)

[2049] : (RB2049-MAは、演劇用のイミテイター。ならば、与えられたその役は、)

コリン : 怖い、 って……、どうしてだ……?(先ほどよりもいくらか落ち着いた声音。)(あなたのカボションめいた瞳を見つめる。)

[2049] : ≪捨てられたんだ。オレは。≫(一行、応答がある。)

[2049] : ≪劇で、舞台で、人間みたいに演技をするために造られて、けどオレは台本通りに喋る事も歌う事もできなかった。≫

コリン : えっ……。(驚きの声。それは、解体される定めにあるバベルに置き去りにされた、というだけではないのだろう。)

[2049] : (それは、いつかの路傍で語った過去。)

[2049] : (そこに、嘘はない。)


[2049] : ≪壊すにはもったいないくらい、オレは”出来がよかった”。でも『おねえちゃんたち』がいる小劇場には”いらなかった”。≫

[2049] : ≪運がよく壊れたら、それでよかったんだと思う。≫

[2049] : (青年模型の体験したほんとうが、閉じられた箱の蓋が開く。)

コリン : おねえちゃんたち、……?(少年にしては辛抱強く、相槌を打つ程度にとどめて、あなたの文字を読んでいく。)(箱の中身は、舞台の裏は、当然明るいものではない。)

[2049] : ≪2040から2048、オレと一緒に造られた同型機。みんな名前がある。≫

[2049] : ≪オレにも ある。≫

[2049] : (ちいさく首を振る。大事なのはそれじゃない、と言いたげに。)

[2049] : ≪おねえちゃんたちと離れ離れになってからは、コリンが知ってる通り。見回りと、暴走したイミテイターの駆除、が仕事。 ……仕事、だけど、いてもいなくても変わらない。≫

[2049] : ≪だって最初からオレは、そこにいるはずじゃなかったんだから。≫

[2049] : (先日の言葉。『どうせ暇だから』。)

コリン : (表示板を読んでいた視線を少しだけ上へ。)(少年の心は、あなたが話し始めてからずっと、揺れている。)


コリン : でも、おれは……、2049が案内してくれるって言った時、嬉しかった……。(落ち着いたことで子どもめいた意地を捨て、多少は素直になったようだが。それは道具への称賛でしかない。)

コリン : ……(考えを巡らすように、一瞬視線を外す。)

[2049] : (人形は、相も変わらすそこにいる。)

コリン : "イミテイター"って、結局、何なんだよ……。

コリン : おれは、2049に「使っていい」って言われて……、こんな場所で明るいシュガーに会って、ずっと命令を守ってるテラに会って、道具だって……思ってたけど……。

コリン : でも、人みたいに"思考する"とか言うし、すききらいまであるし、おれの言うことを聞いてくれないこともあるし、決められたことに疑問を持つ奴までいるし……。

コリン : 道具と、何が違うんだ……? 2049は……、おれたちと、何が違うの?

コリン : (純粋な疑問。たった4日、されど4日。今日までに積み上げてきた価値観が違っていた時、どうすれば良いのか知らなかった。)(反抗期真っ最中で、なんだって分かるって思いこんでいた少年は、素直にあなたに聞いた。)


[2049] : ≪そんなの、オレが知りたいよ……。≫(先程表示されたのと、同じ文字。無機質で、けれど切々と、語り掛ける。)

[2049] : ≪一人ぼっちで寂しかったオレは≫ ≪動いたらお腹がすくオレは≫ ≪疲れたら眠くなるオレは≫

[2049] : ≪みんなと違うのが怖いオレは≫ ≪人の役に立てるのが嬉しいオレは≫ ≪怪我をしたら痛いオレは≫

[2049] : ≪きみと話せて嬉しかったオレは≫ ≪生きてるって言われて嬉しかったオレは≫ ≪生きてるって信じたいオレは≫

[2049] : ≪けど血の一滴も流れないオレは≫ ≪死にたくないオレは≫

[2049] : ≪一体、なんのためにこんな事を考えるの?≫

[2049] : (それは、子供が駄々をこねるような、答えのない問い。俯いて、ぬいぐるみを握りしめる。拳がちいさく震えている。)

[2049] : (それが、演劇用イミテイター RB2049-MAの、ほんとうだった。)


コリン : ………………(ひとつ、ひとつを、丁寧に読む。)(矢継ぎ早に繰り出されるそれらの疑問への答えは、あなたと同じくこの少年も持っていない。)(ただ、感じたのは、"一緒だ"と。)

コリン : (人間様なんて大きな枠じゃなくって、自分と一緒だと、そう思った。)

[2049] : (見つめる瞳が、揺れている。人間みたいに、心の動きを映す鏡のように、揺れている。)

コリン : (何にも分からない子どもだなんて、普段は絶対に認めようとしない。)(でも、けれど、そう、感じてしまったのだから。)(それに蓋をすることも嘘をつくことも出来なかった。)

[2049] : (吐いた息が、震えている。心の内をさらけ出した恐怖で、もっともらしい嘘がついた本当の息遣い。)


コリン : 分かんない……、分かんないよ。おれも……。でも、 おれは、 おれは、(うまく言葉に表せない。一緒だと思って、それで、自分はどうしたいんだろう。嬉しいだとかとも違っていて、どうにか探る。)(知らずの内にぎゅうと握られた拳は、胸に当てられていた。)

コリン : おれは!本当は怖かったよ、昨日から、2049がずっとおれの知らない2049になっちゃうことが、言う事聞いてくれなくなって、おれのこときらいになるんじゃないかって!!(だから、こちらも同じように、胸の内を明かすことにした。)

コリン : だから、認めたくなかったんだ!イミテイターに、2049に意思があるって! さっきのだって、ほんとは道具だって言ってほしかった!!でも、 でも、2049の言葉を読んだら、もうそんなこと思えるわけないだろっ!?一緒だって、思っちゃうじゃんか!!


[2049] : ≪一緒だと、≫

[2049] :   ≪だめなの?≫

[2049] : ≪やっぱり、オレは、ただの道具の演技をしたままなのが、よかったの?≫

[2049] : ≪ごめん。 ……ごめんね。ほんとうは、ゼータとか、……きみに、少しずつ、相談 しようと思ってて≫ ≪ゼータが、生き延びてほしいって言ってくれた時から、思ってて≫

[2049] : ≪でも、それがだめな事なら、≫

[2049] : (文字が止まる。入力中。入力待機中。入力──)

[2049] : (否定したくない。生まれた想いを。やっと踏み出した一歩を、決意を。けれど、まだ未熟な人形の感性は、悩むという人間らしい思考ルーチンで、停止する。)


コリン : ……!!(一瞬、言葉に詰まって) ちが、ちがうっ、そうじゃなくって、 おれは、2049に 2049、に……。

[2049] : (RB2049-MAは、演劇用のイミテイター。人の心を理解し、学習する程度。 けれどあまりにも早く孤立したその機体の思考は、その外見程は、『育っていない』。)

コリン : (どうなってほしいんだ?おれは。なにを、伝えたくて。どう、なりたくて。)

コリン : だめじゃない、いやじゃない、けど……、 おれはあんたを、どう扱ったらいいのか、分かんないよ……。

コリン : 2049は、いやじゃなかったの……?おれから、道具って扱われるたり……、命令されるの。


[2049] : (伏せられた瞳が、すうと動き。また、あなたを捉える。)

[2049] : ≪寂しかったけど、そういう風に見られるように選んだのは、オレだから。≫

[2049] : ≪コリンにそうされたから、寂しかったんじゃない。人間に、仲間に気持ちが伝わらなくて、モノみたいに思われて。≫

[2049] : ≪それはすごく悲しかったけど、それ以外で、どうやって生きていけばいいか、分からなかった。≫

[2049] : ≪悲しくても、悲しいのを隠せば、それ以上は傷付かないって思ってた。≫

[2049] : ≪だから、≫≪コリンのせいじゃないよ。≫≪ぜんぶオレがはじめた間違いだ≫


コリン : ……(その言葉で一瞬嬉しくなって、嬉しくなったことに気付いて、振り払う。)

コリン : でも、2049は、寂しかった んだろ……。 じゃあ、それは、もうやめる。

コリン : 2049が、そう感じるんなら、 おれは、そう、させたいわけじゃなくって……。

[2049] : ≪コリン……≫

コリン : おれはもう、2049のこと、道具だと思えないよ……。 無理やり従わせたいわけじゃ、ない。わるいやつに、なりたくない。

コリン : 他のイミテイターがどうかは分かんないけど、2049が、ヤだったなら、そんなことしたくない。


[2049] : ≪オレは、ポップや他のみんなにも、もっと自分を大事にしてほしい。≫ ≪でもそれはたぶん、難しいから。≫

[2049] : (悩むように、ゆっくりと文字が現れ)

[2049] : ≪イミテイターは道具だって、使うものだって教えたオレがこんなお願いをするのは、虫が良すぎる話だけど≫

[2049] : ≪──優しくしてあげて。少しでもいいから、時々でもいいから、なにかを『考えてそうしてる』って、≫

[2049] : ≪思って、あげて≫

[2049] : (それは、「2049がイヤなら」という己に向けられた言葉への答えで、けれど自分の事は言っていなくて。)

[2049] : (人形の、人間じみた思考は、そんな言葉を選んだ。)


コリン : ……、分かった。2049のことも、そう思っとくよ。

コリン : "そういうもの"じゃ、ないんだな。決められたから、"そういうもの"になるんじゃなくて。 考えて"そうしてる"んだなって。

[2049] : ……! (小さく、声が混じり。頷く。)

[2049] : ≪ずっと、バベルが終わる時まで、”そういうもの”でいようって、思ってた。≫

[2049] : ≪やっと終われるって思ってたのに、終わるって思ったら、≫ ≪偽物のままいなくなるのが、怖くなった≫

[2049] : (ふいに、そんなことを。)

[2049] : ≪迷っていたときに、きみに会った。≫ ≪いつも通り、”そういうもの”になった。≫

[2049] : ≪……きっときみはそれのせいで、苦しい気持ちになったから≫

[2049] : ≪ごめんね。≫


コリン : いいよ……。おれも、"そういうもの"だって納得しちゃって、考えなかったし……。

コリン : だからきっと、お互い様、だろ。

[2049] : (こくり、頷いた。 叱られた子供が、それを大人から許された時のように。)

[2049] : (嗚咽にも似た小さな呻きが、漏れる。)

コリン : (頷かれて、安堵する。少年もまだまだ子どもで、今のは仲直りのつもりだったらしく。)(あなたとの関係に幕が引かれてしまわないことを、嬉しく思った。)


コリン : って、うお、ど、どうした……!?

[2049] : ン…… (文字はなく、今にも泣きだしそうな顔。 ……やはり、まるで子供のように。)

コリン : (慌てたように一歩よる。こどもに何が出来るというわけでもないので、おろおろと下から見ているだけなのだが。)

[2049] : ≪コリンがオレのこと、 嫌いにならなくてよかった……≫ ≪オレたち、まだ一緒にいれる?≫ ≪また一緒に、遊びに行ける?≫

[2049] : (遊びに、とは。昨日の音楽室の事だろう。このイミテイターにとってはあれすらも人とのつながりで、渇望で。)

コリン : うん……、当然だろ!(力強く、肯定した。)メセムのアトリエだって見に行くって約束したし、遊園地だってあるし、 2049と一緒なら街の外にだって、どこにだって、遊びに行く!


[2049] : ≪ほんとうのこと話すの、怖くて。≫ ≪おまえは道具だって言われたら、どうしようって。≫(嘘がばれて叱られた子供が、それを咎められて、そうするに至るまでを語るように、文字が流れ、しかしあなたの言葉に、止まる。)

[2049] : ン゛…… (頷いた。大きく。)

[2049] : (街の外。どこまで、いつまで行けるのだろう。)

[2049] : (それでも。)

[2049] : ≪一緒に、いろんなところに行きたい。≫


コリン : (そう言われれば、ばつがわるそうに少し目を逸らして。けれどすぐに戻した。)

コリン : 昨日までは……ごめん。でも、いまは 今は、道具だなんて思ってない。

[2049] : (首を横に振ったり縦に振ったり。「いいよ」と「わかるよ」を繰り返す。)

コリン : 行こうぜ、いろんなところ。怪我したりしちゃったら、ゼータを頼ったりしてさ。

[2049] : ……!(こくこくと頷いた。泣き出しそうな瞳は少しばかり明るくなって。)

コリン : (ぎゅ、と子どもらしく無遠慮に、両手であなたの手を握ろうとする。)

[2049] : !!(ぬいぐるみを小脇に抱え直し、人形の手がそれに応えるだろう。)

[2049] : (あなたがそれに触れたのならば。それはきっと、見た目よりも柔らかくて、熱を持っている。)

コリン : (関節部には人にはない隙間が空いている。けれど、触ってみればやっぱり、自分と一緒だと。)(そう感じた。)


コリン : うん、じゃあ、約束な!(あなたの手を握れば、いつもの笑みで。心底から嬉しそうだった。)

[2049] : (魔道仕掛けの、にせものの温もり。けれどそれを否定するものは、)

[2049] : (──どこにもいない。彼らが”そう思う”限り。)

[2049] : (こくり、頷いた。≪約束だ。≫ と文字も追従する。)

コリン : (追従された文字を見れば、更に微笑み)

コリン : ……(それから何か言いたげに、あなたの手を握ったままもにゃもにゃして)

[2049] : ? ??

[2049] : (手は握ったまま、きょとんと)

コリン : あっ、あのさ。 昨日、テラが……イミテイターは"友"って言うこともあるって、言ってたよな。イミテイター同士は、だったけど……。

コリン : でも、でもさ、

コリン : おれと2049が、友達でも……いいよな?


[2049] : ≪オレは≫ ≪もうそうだと思ってたよ!≫

[2049] : (にこり、微笑む。)

コリン : ……!!うんっ、そうだよな!

コリン : (一層あなたの手を強く握った。にこ!)

[2049] : ……!(同じような強さで、握り返すだろう。)

[2049] : ……ン、(と、はっとしたような表情になり)

コリン : ?どうした?(今度はこちらがきょとんとした顔になる番だった。)

[2049] : ≪名前。名前で呼んでほしい。2049じゃなくて。≫

[2049] : (それは、”お願い”。人間様への傲慢な要求ではなく、友達へ。)

コリン : うん、おれも呼びたい。さっき言ってたもんな、名前があるって。(その場では混乱していて、さらりと流してしまっていたそれを。改めて問う。)

コリン : 教えてよ、あんたの"名前"。

[2049] : ≪これからちょっとずつ、ほんとの事をみんなにも話したい。だから。≫(と、表示させたところであなたの声。嬉しそうに頷く。)


[2049] : ≪正式名称は、RB2049-MA、≫

[2049] : ≪あざなは、”Gray(どっちつかず)”。  ”グレイ” ハーヴィ。≫

[2049] : ≪ハーヴィって呼んで。≫

コリン : "グレイ"ハーヴィ……。(表示された文字を声に出して読む。確認するように。)

コリン : へへ、かっこいい名前だ!よろしくな、ハーヴィ!(初めにした挨拶と同じように。けれど違う意味をもって。)

[2049] : ≪そう。灰色のハーヴィ。人間の演技ができなくて、けど人間に似すぎてしまったから、≫(それを文字に語らせる表情は、少し寂し気だったが、すぐに。)

[2049] : ≪でもいいでしょ。それが生きてるってことだと思えばさ。俺は白黒つけないハーヴィ。それに、≫

[2049] : ≪コリンがかっこいいって言ってくれるから、俺も好き!≫

[2049] : ≪よろしくね、コリン。≫ (返す言葉。雁字搦めを断ち切って、確かな糸を結び直す。)

コリン : へへ……(照れくさそうに笑って)

コリン : それに、演技なんか出来なくっても、ハーヴィはおれの友達ってことには変わりないもんな!

[2049] : (背負いこんだ悲しみも、それを認めてくれる誰かが、あなたがいれば。)(きっと、後ろから照らしてくれる。)


[2049] : ン!(元気に頷く。)≪もうお芝居はやめる。 ……あ、必要なときはするけど。視察のイミテイターとか怖いし…≫

コリン : ああ、あのジレイって奴な……。あいつの前では、ハーヴィって名前もバレない方が良いのか?

[2049] : ン~…… ≪あのひと、オレのことすごく真面目なイミテイターだって思ってるみたいだし……。≫

[2049] : (あのひと、に限らず。『極めて模範的なイミテイター』を演じていたからそうなのだが。彼に向ける感情は少し違うらしく。)

[2049] : ≪……でも、名前くらいなら大丈夫……だと思う。喋る時だけ、前みたいにする。≫

コリン : ん!分かった!(嬉しそうだ。教えてもらったあなたの名前を、呼ぶことが出来るから。)

[2049] : ≪また名前呼んでもらえるの、嬉しいな。えへへ≫(文字が、喜びを素直に表示させ。)


[2049] : ≪あ、そうだ。こっちはふわふわ。≫(と、持っていた汚れたぬいぐるみを見せる。)

コリン : (そう言われれば少年もまた嬉しそうに。嬉しいの循環だ。)

コリン : ふわふわ……、確かにふわふわだけど、それがこいつの名前?(汚れたぬいぐるみを見やり)

[2049] : (こくり、肯定。)≪バベルから人がいなくなったときに捨てられたみたいで……。なんか、オレみたいで、かわいそうだなって思って。≫

[2049] : ≪持ち主探してるって嘘ついて、拾っちゃった。 ふわふわだから、ふわふわ。≫

[2049] : ≪今はちょっと、ぼさぼさ……。≫


コリン : ぬいぐるみくらい持って行ってやれば良いのにな……。 ゼータのところでふわふわに戻せねーか、聞いてみるか。

[2049] : ……!! (目を輝かせて頷く。)≪綺麗にしてあげたい……!≫


[2049]は、汚れたぬいぐるみを使った。

もふ…


[2049] : (ぽふ、とぬいぐるみの頭を撫でてちょっと潰れる。)


コリン : (結構しなしなになってんな……、と思ったが口には出さず。)ん、ハーヴィとやりたいこと、いっぱいあるな。へへ。

[2049] : (嬉しそうに頷いて。くたくたのふわふわを胸の前で抱えたままその場で小さく跳ねる。)≪全部楽しみだね!≫

コリン : ああ!(子どものように跳ねるあなたに、つられてぴょん。)

コリン : じゃあとりあえず、ゼータにそういう機械ないか、聞いてみるよ。

コリン : ハーヴィ、おれと友達になってくれて、ありがとな!

[2049] : (うんうん頷く。)≪オレもゼータとはもっかい話したかったんだ。行ってみなきゃね。≫

[2049] : ……!!!

[2049] : ≪オレも、≫≪オレも、コリンと友達になれて嬉しい!≫


[2049] : (糸繰り人形は、その糸が切れればただ頽れるだけ。けど、)

[2049] : (糸に繋がれただけの、生き物ならば。)

[2049] : (立っていたって、何も不思議ではない。)

[2049] : (”青年”はまた跳ねる。子供のように。それが証左。それがすべて。)


コリン : (最早疑問に思うことはない。)

コリン : (あなたは間違いなく、地に足をつけて、立っている。)

コリン : (己の力で。)(己の意思で。)(己の選択で。)(生き物として、立っている。)


コリン : (嬉しさを全身で表すあなたに、少年は嬉しさを顔一面に表して。)

コリン : じゃあ、またな!おれはゼータ探してくる!(またねの挨拶をして、手をぶんぶんと振った。)

[2049] : ン!!(言葉には出せないけれど、大きく返事。)(背伸びをするように大きく手を振る。)


[2049] : (もう見えないかもしれないけれど、端末には≪またね!≫と表示されていた)

[2049] : (喜色満面で、その喜びを全身全霊で。


[2049] : ≪Fake! fakE!≫

跳躍=弧を描く/宙に溶ける。

[2049]は[ステルス]になった。


[2049] : (──宙を舞った。ハリボテ裏の空のうえ = くるくると / 幸せそうに / 廻っている。)


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