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『セイラ』

更新日:2024年2月5日



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たのしかったです! 助けてください。

セイラ : ────もし

[2049] : ……?

セイラ : いませんか。どなたか。

[2049] : (通り過ぎようとし、ふいに聞こえた言葉に立ち止まり)

セイラ : (手摺を撫ぜる)

[2049] : (「オレ、じゃないみたいだ。イミテイター……?」)(少し、近付こうと)

セイラ : (役目を終えたモノから眼を逸らし乍ら)

セイラ : (問うのです)

セイラ : (問うのです。問うのです)

セイラ : 何方か。居りませんか。

セイラ : 私は人間です。私 は

セイラ : 人探しをしています。

セイラ : 聞こえませんか。イミテイタ。

[2049] : ……(見えるだろうか。己の『言葉』が。彼女に。分かるのだろうか。)

[2049] : (それでも一歩、前へ)

セイラ : 私は────

セイラ : (がらん、と)

[2049] : (あなたの前に立つ。胸元の端末を見せようと、)

セイラ : (足元の瓦礫を、硝子の靴で削りながら)

セイラ : (振り返るのです。おんなは)

セイラ : (それは実に、浅ましい犬のように)

[2049] : ≪ここにいる。大丈夫か。≫(そんな文字が、端末に表示され)

セイラ : …………

セイラ : (休符、いくら)

[2049] : (声は出せない。出せたとて、それはこの目の前の存在が発する言葉より、きっと意味を成さない)

セイラ : (それから)

セイラ : ────もし。

セイラ : (かちかちと、刻む視線で)

セイラ : (文字盤に、視線で触れました)

[2049] : ≪大丈夫か。≫(もう一度問う、文字がひとつ。あなたの目の前に。壊れかけた同族を、繋ぎとめる術は。)

[2049] : (──あるいは、もう壊れていたとしても。)

セイラ : 大丈夫、とは

セイラ : 何でしょうか。

[2049] : !(反応が返ってきたことに驚く。すぐに次の文字が現れる。)

[2049] : ≪助けが必要な状況かと判断した。あなたの身を案じている。≫

セイラ : …………

[2049] : (それが如何ほどに効果があるのか、逆効果なのか。分からないが、このイミテイターにはそれをやめる理由もつもりもなかった)

セイラ : 私は。

セイラ : (繰り返す。繰り返す。ゝ)

[2049] : ≪ああ。≫(応える。必要だと思ったから)

セイラ : (幾度も幾度も捲った頁をもう一度)

セイラ : 人を探しています。

セイラ : 腕の佳い技師と、鮮やかな髪の人間です。

[2049] : ≪ああ、人を探してここまで来たのか。≫

セイラ : (小さく頷けば、はらとヴェールが踊ります)

セイラ : 彼女の名前はセイラ。 私は人間です。

[2049] : (この言葉が、捲られた頁に挟まれる栞になるだろうか。無駄だとしても、応える。)

セイラ : あなたは。 私のデータベースにありません。

セイラ : 初期登録をお願いします。

[2049] : (人間、と呼ぶには程遠い。恐らく自分よりも)≪ああ、わかった。≫

セイラ : (押し黙る──斯くや、静止した)

[2049] : ≪RB社製、MA型。製造番号2049。 ……名前は、ハーヴィ。≫

[2049] : ≪登録を頼めるか?≫

セイラ : ハーヴィ。

セイラ : (呟いた聲は、消え入りそうなほどに小さいハスキーヴォイス)

セイラ : (けれど、よく通る聲だった)

セイラ : (この場にはおんな以外の聲はなく)

セイラ : (呼吸もなく、足音もない)

セイラ : (命がない。何もない)

[2049] : (青年の姿をしたそれが口を開くことはなく。だからそれは青年のものでもない。)

セイラ : (落とした遍くが佳く響く)

セイラ : ハーヴィは

[2049] : ……。(押し黙るその中に、吐息が混じる。)

[2049] : ≪ああ。なんだろうか。≫

セイラ : ご存じありませんか。

セイラ : 人間か、技師です。

セイラ : セイラが望んでいます。

セイラ : 応えなさいイミテイタ。

セイラ : 私は人間です。彼女はセイラ。

[2049] : ≪応答する、しばしの時間を。≫(焦ったように、文字が流れる。)

[2049] : ≪技師にはアテがあるが、あなたの望む者かはわからない。≫

セイラ : …………そうですか。 それは好ましいことです。

[2049] : (答えていいものだったのか、関わっていいのもだったのか、わからないが。このイミテイターの、人擬きの人格は、実に人間らしく出来ている。)

セイラ : これを直さないといけないので。

セイラ : そのために、技師が必要なのです。

セイラ : (笑むおんなは、その場てくるりと廻る一度)

セイラ : 私では直せませんでした。

セイラ : 技師でなくとも、どなたか解れば佳いのですが

[2049] : (これ?と、首を小さく傾げ。女が廻る。やたらとスローモーに感じるのは、きっとこの目が壊れたからではないだろう。)

[2049] : ≪人間様通りに、技師がいる。あなたの助けになれば良いのだが。≫

セイラ : 人体です。 人間の命と人間の身体と心。

セイラ : 人間は私を生み落としたのです。

セイラ : そしてあなたを。

セイラ : だったら。

セイラ : このくらい造作ない。

[2049] : …………。(沈黙。端末にはなにも表示されない。)

セイラ : 彼女はセイラです。

セイラ : セイラは望みました。

セイラ : 「死にたくない」と私に。

セイラ : ですから。

[2049] : (仮説 = あってはならない考え。 しかし、その答えは目の前にある。)

[2049] : (否応なしに / 突きつけられる)

セイラ : ハーヴィ。

セイラ : 教えてください。技師を。

セイラ : 私には足りないものが多すぎる。

[2049] : (”彼女は”セイラ。意味に気付く。虚構の鼓動が、 ハルシネーション が早鐘を打つ。)

[2049] : ……(沈黙。もっとも、最初から口など開いてはいない。)

[2049] : ≪人間様通りの技師では、足りないかもしれない。見つかるといいのだが。≫

[2049] : (かろうじて、文字の出力。……思考が帰結しない。ゆっくりと、ゆっくりと現れるその場凌ぎ)

セイラ : 足りないことはない。

セイラ : 人間は偉大です。

セイラ : 人間は不足なく正しいのです。

セイラ : でしょう。ハーヴィ。

[2049] : (造り物の、正しい思考。壊れているがゆえのそれは、如何とも揺るぎ難い。)

[2049] : (同意する? 否定する? どちらも間違っている。 沈黙する? それで何になる。)

[2049] : (RB2049-MAは、思考する。その人間じみた思考回路で、しかし未だ未熟な性能で。)

[2049] : ≪人間は正しい。同意する。だがそれを持ちえない人間では、あなたの望みは叶わない。≫

[2049] : (なんとも、歯切れの悪い言葉。)

セイラ : (沈黙、幾ら)

[2049] : ≪あなたの望みを不足なく叶える人間を、わたしは未だ知り得ない。≫

セイラ : (逡巡、と呼ぶには余りに過分な、キャッシュの削除とバッファの処理)

セイラ : そうですか

[2049] : (──恐怖。 青年型の模型が覚えた感情。女の一挙手一投足さえ、見逃してはならない)

セイラ : データベースを更新します。 技師情報無し。

セイラ : 残念です(と、零す言葉の軽さ)

[2049] : (一先ず。先延ばしと繰り返し。幾分、”彼女”には申し訳なかったが)

セイラ : でしたら、また探します。

セイラ : 思えば。

[2049] : ……?

セイラ : (想ってなどいない)

セイラ : 完璧な人間を直すのです。

[2049] : (想っている事を願う。空虚だとしても、そうではない事実を解っていても。このイミテイターはそう想う。)

セイラ : それは完璧な人間でないと、直せないのでしょうね。

セイラ : (それから)

セイラ : あゝ(と零すしぐさは、実に人間の)

セイラ : プロセスが更新されました。

セイラ : 完璧な人間です。 技師ではなく。

[2049] : (──栞には、なれないのだろう。それどころか。)

セイラ : ハーヴィ。 完璧な人間です。人間。

セイラ : 完璧な人間とはなんでしょうか。

[2049] : (捲られた頁に、朱書きをしたとしたら。彼女は、)

セイラ : 私のデータベースにはありません。

[2049] : ≪わたしも、知らない。わからない。≫

[2049] : (データベースではなく、記憶と知識として。ただそれだけを。)

セイラ : (それを聞いて、小さく笑う)

セイラ : (吐息のひとつも零れないその歪は)

セイラ : (どの表情よりも人から遠い)

セイラ : 仕方ないことです。

セイラ : 私にはあなたには、決して届かない噺。

[2049] : (つとめて、肩が上下するのを抑えて。肺の動きと似ているだけの空気の出し入れが、震えることのないように。2049は演劇用のイミテイター。身体を、感情を制御する程度。)

[2049] : ≪ああ。その通りだ。≫

セイラ : 違うのですから。人間とイミテイタ。

セイラ : 違うことは佳いことです。多様性。

セイラ : ですから。

セイラ : 私は、完璧な人間に殉じます。

[2049] : (ついさっき、ヒトに認められた己の生命に生じる懐疑。振り払う。振り払う。文字の映らない端末その後ろ、思考はずっと巡っている。)

セイラ : 私の凡ては、人間の為に。セイラの為。

[2049] : (”どっちつかずの”ハーヴィは生きている。灰色の命を抱えて生きている。)

セイラ : それが、私の

[2049] : ≪それが、あなたの、≫

セイラ : (──“我々”の)

[2049] : (言葉が、思考が一瞬交わり)

セイラ : あるべきかたち。

[2049] : ≪あなたの在り方を、私は尊重する。≫

[2049] : (本心だ。魔導仕掛けの内から出た言葉。”いつかこうなるかもしれない自分”を思えば、他人事などではなく。)

セイラ : ありがとうございます。ハーヴィ。

セイラ : 私は人間です。

[2049] : ≪ああ、あなたは 人間だ。≫

[2049] : (己がそう望むように、”彼女”がそう望むなら、そうあってほしいと願う。)

[2049] : (それが壊れた望みだとしても。)

セイラ : 私は、あなたに救われましたので、礼を。

セイラ : (観えた灯台のひかり。それは電光掲示の鮮やかな)

[2049] : ……。(息を吐く。震えの中に、驚きが混じり)

[2049] : ≪すこしでも、あなたの助けになれたのであれば幸いだ。≫

[2049] : (定型文めいて、けれど本心から。)

セイラ : ありがとうございます。

セイラ : 私は、完璧な人間を探します。

[2049] : ≪ハーヴィは、いつもこの街にいる。憶えていて。≫

セイラ : データベースに登録しました、ハーヴィ。

[2049] : (それがなんの役に立つかは、わからない。答えられない。だがそれでも、)

[2049] : (『やめないこと』を、どっちつかずは選んだのだ。)

[2049] : ≪見回りの、仕事に戻らなくては。また会おう。≫

セイラ : えぇ。

セイラ : 今度は、お待ちしております。

セイラ : 上等なオレンジペコを用意して。 あなたを。

セイラ : セイラはそれが好きでした。

[2049] : (こわかったはずなのに。哀れで健気なそれに後ろ髪引かれるのは、心配か、罪悪感か。)

[2049] : ≪今度はセイラの話も聞かせてくれ。 ……それじゃあ。≫

セイラ : (────セイラ)

セイラ : (最後に置いたその言葉)

セイラ : (そのおんなが終ぞ)

セイラ : (あなたを観ていないことの証明でした)

[2049] : (上を見上げる。足場の確保、よし。 ふっと視界から消える。──一瞬深く屈み。)

[2049] : ……。 ≪Fake! fakE!≫

跳躍=弧を描く/宙に溶ける。

[2049]は[ステルス]になった

セイラ : 気を付けて

セイラ : (消えた影に置く)

セイラ : (届かない言葉に)

[2049] : (地面を蹴る。/飛び上がる。/そうして銀糸の上、空中散歩のはじまり。)

セイラ : (残らないものに)

セイラ : (価値はない)

[2049] : (言葉を届けることは、もう叶わないが。)

[2049] : (手を振った。見ていなくても。届かなくても。無価値でも。)

[2049] : (そうすることに意味があると、”グレイ” ハーヴィは、信じたかった。)

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