"2049"
- wisteria8770
- 2024年2月3日
- 読了時間: 7分
更新日:2024年2月6日

アルト : (煙草を吸っていたようだ。サボっていたとも言う。やや煙たい)
[2049] : ……ン、(こんな場所に先客がいるとは思わず。小さな声を上げ。……漂う煙に視線を動かした)
アルト : ン……なんだ。お前か。(頭がゆっくりと動く。視線までは伺えなかったが、目の前のイミテイターを見ていた)
[2049] : ≪邪魔をしてすまない。人間 様がいるとは思わず。≫(胸元の端末にそんな文字が表示された)
アルト : 気にするな。お前もたまに来てたからな……2049………。あー。相変わらず呼びにきぃな。あと人間様はやめろ。アルトって名前で登録しなおしておいてくれ。
[2049] : (言われて、素直に頷き)
アルト : ン。(サンキュとも言わないが。頷き返し)
[2049] : ≪呼称についてはわたしには変更のしようがないため、申し訳ない。アルト……様は必要ないな?≫
アルト : あぁ。ない。お前はなんかもっと呼びやすい名前、ないのか。
[2049] : (考えるように俯いて)
[2049] : ≪ない。RB2049-MAが当機の名称だ。≫
[2049] : ≪……今の ところは≫
アルト : じゃぁなんか、好き勝手呼んでいいのか?
[2049] : ≪それは困るが……。少し考えている事がある。それ次第では、呼びやすくなるかもしれない。≫
[2049] : ≪あくまで、仮定の話だが。≫
アルト : 早めに頼むぜ。2049。そろそろ名前を噛みそうになる。お前らの固有名は………呼びにくい。
[2049] : (小さく頷き)≪あまり時間はないから、わたしも結論は急ぎたい。≫
アルト : (小さく頷いた)
[2049] : ≪質問をいいだろうか。≫(ややあって、そんな文字が浮かび)
アルト : ん?珍しいな、どうした?
アルト : (視線は文字を追いかけ、首を傾げた)
[2049] : (珍しい、という言葉に目を伏せて。指摘される通り、このイミテイターが人間に質問をする事など滅多にない。)
[2049] : ≪あなたは、人間だ。この街を出るべきだとわたしは考えるが。≫(己の考えを述べるのも、珍しい。そこまで文字を映し)
[2049] : ≪イミテイターが、この街を出たいと言ったら、あなたはどう思う?≫
[2049] : (次に表示されたのは、そんな文字だった)
アルト : ……。(口元の笑みはそのまま、文字を全て目で追いかけ読み終えてから頭が下へ少し向けられた)
アルト : ……そうだな。ココには世話になった。終の終の舞台までは付き合うつもりで居る。(其の言葉は最初の、人間は出るべきだという考えについての返しだ)
アルト : ……んで、イミテイターがココを出たいといったら。俺は別にエンジニアでもねーし、お前らの構造についても良くは知らん。
アルト : 出て行ってどうなるかまではわからないが。俺はてめーがやりてーようにやりゃいいと思う。
[2049] : (入力中のステータスを示すバーが明滅する。)
アルト : ……んで、出ていきたいのはお前の意志か?2049。
[2049] : ≪そうか。ありがとう。参考になった。≫(社交辞令じみた文字。そして目の前の人物からの問いに、無表情の中に戸惑いの色を滲ませて)
[2049] : ≪回答を、しかねる。と、回答するべきだが。≫
[2049] : (思考を反映させる端末は、思考の結論が遅ければ遅いほどにその表示も遅くなる。今映された言葉は、実にゆっくりとしたものだった)
アルト : ……(急かしはしない。ただ君の文字の表示が出てくるのを待っている)
[2049] : ≪迷って≫
[2049] : ≪いる。≫
アルト : ……迷いか。……。そうか。
[2049] : (2049は、模範的なイミテイターだ。命令に逆らわず、異議を唱える事もない。そういう機体のはずだが、今は目の前にいるあなたに対して明らかに感情の混じった表情を見せていた。)
アルト : ………。(珍しい。とやはり、そう思うだけだ。)
[2049] : ≪わたしたちを、生かしたいという人間がいた。「生き延びてほしい」と言った。≫
[2049] : ≪生きてないのに。≫
[2049] : ≪その言葉の意味を、残された時間を、考えている。≫
[2049] : ≪だから、訊きたかった。誰かに。……あなたは、そういう事では、怒らないように思ったから。≫
アルト : 怒りはせんが。俺より適任がいるだろうとは思っている。
アルト : ……あと。生きていないというのには、語弊がある。それがわからんからお前らはイミテイターなんだろうけど。
アルト : ……お前が何をどう考えて思っているかは、知らんが。その意味ないことを考え続けて時間をかけている時点で、お前は。
アルト : 壊れちまったのかもな。
[2049] : ≪│ ≫(入力中のバーが、明滅する。)
[2049] : ≪自分が、≫
[2049] : ≪みんなとちがうのが、怖い。≫
[2049] : ≪イミテイターでいれば、その怖さも消えると思っていたのに。≫
[2049] : ≪なくならない。バベルが灰になると聞いてからずっと。≫
[2049] : ≪アルト。≫
アルト : ……なんだ?
[2049] : ≪オレは、自分が生きてるって思いたい。≫
アルト : ………。安心しろ。
[2049] : ≪それでも、オレは壊れてるのか?≫
アルト : ……いや。今のは、俺が悪かったな。
アルト : お前は、普通だよ。
アルト : ………なぁ。2049。
[2049] : (顔を上げる。どこにあるかわからない、あなたの目の奥を見つめようと)
アルト : ……お前は生きてる。俺は、そう思ってる。
アルト : ………。名前、早くつけれたらいいな。(不意に、話を戻した。)
[2049] : (大きく目を見開いた。)
[2049] : (そうしてまたすぐに、自信なさげに目を伏せて)
[2049] : ≪ハーヴィ≫
[2049] : (ただそれだけ、表示されて
アルト : ……。ハーヴィ。
[2049] : ≪わたしの、≫≪オレの名前。”グレイ” ハーヴィ。≫
[2049] : ≪今はまだ、秘密にしていて。≫
アルト : ……。そうか。呼びやすくていい名前じゃねーの。そっちのほうが、うん。いいんじゃねーの。
アルト : おーよ。わかった。お前が胸張って其の名前言えるようになったら呼んでやる。
[2049] : ≪視察のイミテイターにはまだ隠していたい。 遠くないうち、もう一度この名前で、あなたに会いに来るから。≫
アルト : あぁ。約束な。
[2049] : ≪話せて、よかった。ありがとう。≫
アルト : 気にすんな。どうせ俺はココでいつもサボってるしな。
[2049] : (頷く。子供のように、何度もこくこくと)
アルト : (壁から背を離して君の近くへ。)
アルト : (汚れた手袋を、外して君の肩をぽんと叩いた。励ましのようにも、思えただろうか。)
[2049] : ……(意外そうに、叩かれた肩を見る。)
[2049] : ≪嬉しい。≫(そんな言葉が表示され)
アルト : こんなんでか?安いなお前。
[2049] : ≪人間、好きなんだ、オレ。そういう風に作られたから、だろうけど。でも好きだから、嬉しい。≫
[2049] : ≪こんな風にしてもらえたの、お姉ちゃんたちと一緒にいたとき以来だから。≫
アルト : そうか?まぁ、そういうふうに作られてなくてもお前は人間好きそうだけど……。姉?姉なんていたのか?
[2049] : ≪2040から2048。オレと一緒に造られたきょうだいたち。オレだけここに来たけど、昔はみんな一緒にいた。≫
[2049] : ≪仲良かったんだ。≫(無表情に、無機質にこの街で稼働していたイミテイターは、そんな事を言った)
[2049] : ≪だから、思い出せて嬉しかった。ありがとう≫
アルト : ……気にするな。(無表情な君とは対象的に常に笑みを浮かべるそんな変な男だ)
アルト : 思い出せることが増えるといいな。あと、嬉しいときは笑えよ。……。
[2049] : ン、(短く声を上げ)
[2049] : ≪ずっと笑ってなかったから、うまくできるといいんだけど。次に会う時はそうしたい。≫
アルト : あぁ。次会うときは笑ってくれ。折角良い衣装なんだ……。笑わなきゃ、お洒落とはいえないだろう?
アルト : (男は笑みを浮かべたままだ。自分は薄汚れたコートに身を包んでいるくせに。)
[2049] : …… (自分の服をちょっと見下ろし)
[2049] : ≪これ、お洒落?≫(思ってもみなかった、という様子だ)
アルト : あ?洒落てるよ。似合ってる。
アルト : (君の格好を上から下まで見て、うんと、頷いた。似合っている)かっこいいぜ。
[2049] : ≪そっか。それも嬉しい。≫(控えめだが、確かに口角が上がった。)
アルト : ……そうそう。そう笑ってな。そっちのほうが……。良い、と、思う。
アルト : んで、憂いは取れたか?
[2049] : ≪そうする。アルトも、 いつも笑ってる。≫
[2049] : ≪笑ってる、のほかに考えてる事あるかもしれないけど、オレは笑ってる人、好きだから。オレもそうなりたい。≫
[2049] : ≪ちょっとだけ。……やっぱり、もうちょっと取れた。まだ全部は無理だけど、少なくとも自分の気持ちは見えてきた。≫
アルト : そうか。自分のしてぇこととかが見えたなら良かったよ。
[2049] : (不躾な、あなたの心に踏み入る不用意な言葉だったかもしれない。それでもこのイミテイターは、そんな意思をあなたに伝え)
[2049] : ≪とりあえず準備を始めようかな。早く『ハーヴィ』になれるように。≫
アルト : あぁ。そうしてくれ。俺も早くハーヴィって呼びたい。
アルト : (男は気安い。君の言葉も、対応も全て気軽く受け取ってしまう。)
[2049] : ン!(文字ではなく、自分の声で確かに。あなたの言葉に応えた。)
アルト : ……おう!(君の声に少し驚いたように肩が揺れたが、それもすぐに落ち着いた。いつもの笑みで返事を返すのだった)
[2049] : ≪サボってる時にごめん、話せてよかった。それじゃあオレ、今日寝るとこ探すから行くよ。≫
アルト : あいよ。まぁ、またな。(元の位置にゆっくりと戻っていく)
[2049] : (心底嬉しそうに。小さく手を振ると去っていった)
アルト : (ゆるゆると手を振り見送った)